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純愛小説(うそ)「ある恋のかたち」

last updated 2000/12/04

あたしがもうちょっと若い頃、友人の体験談を元に書いた小説です。
設定等はフィクションですが、基本的にノンフィクションですよ。
(んなもん、小説と呼べるかー!)


第一章  冬

 第一営業課に、中途採用の若い子が入ってきた。名前は高水圭子。年齢22歳。短大を卒業後、就職戦争の波に乗り切れず、1年ほど出版社のアルバイトでつなぎ、常務の知人を頼って採用されたらしい。小柄でショートカット、まだ、あどけなさが残る顔立ち。もうすぐ40歳になろうという私にとって、もちろん恋の対象になるはずもなかった。
 私、角田洋二39歳。大手医療機器メーカーの代理店に勤める営業マンである。一応、係長という役職にあるものの、やってることは部下と同じ。大学病院や開業医、リハビリセンターなどの取引先への売り込みが仕事。新規開拓の時は部下と一緒に行くが、普段は一人で歩くのが自分のやり方だ。医者や事務長の“たいこもち”をしながら契約にこぎつける辺りは、医薬品のメーカーや問屋のMRのやり方となんら変わりはない。心の中で世間知らずの医者を馬鹿にしながら、そんなことはおくびにも出さない。思わず赤面するようなお世辞、普通の人なら慇懃無礼と怒るようなことでも、彼等は素直に受け取ってくれる。そして契約書に印鑑をもらった瞬間に得られる、何とも言えない快感が一種、麻薬のようである。「ありがとうございました」と頭を下げるのとは裏腹に、心の中で舌を出している。詐欺師というのはこの快感のためにやめられないのかもしれない。自分の心の内外でギャップを感じながら辞めていく若者が多いこの業界だが、私としてはけっこう性にあっていると思う。
 この会社には、担当を地域ごとに分けた営業課が五つあって、中でも第一営業課は、新宿、渋谷、杉並、世田谷などの都心西部という重点地区を受け持っている。課長以下、担当の営業マンはそれぞれの課に20名ほどいて、さらに、事務担当の女子社員を2、3名加えて一つの課が成り立っている。
 圭子の仕事は、電話の取次ぎや契約の集計、交際費のまとめやスケジュール管理など、言わば、第一営業課の庶務係といったところだ。そんな彼女と外回りの多い私は、半年ほどまともに話をする機会もなかった。

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