医療情報

地域の皆様に時々お話しさせていただいております「講演」の要旨です。


高血圧の予防と管理
心臓病の診断について
学童を生活習慣病から守るために
心臓ペースメーカーのお話
閉塞性動脈硬化症について


高血圧の予防と管理

 高血圧症につきましては皆さまよくご存じのことと思いますが、今日は少しでも皆さまのお役に立てるような、わかりやすいお話を心がけたいと思っています。
 日本には高血圧の人は約2千万人いるといわれています。ですから成人の4人に1人は高血圧になる割合です。病気の中では最も多いということになります。

高血圧の基準
高血圧140/90以上
正常高値血圧130-139/85-89
正常血圧130/85未満
至適血圧120/80未満
単位 mmHg

 どこにでも書いてあります高血圧の基準です。収縮期血圧、これはいわゆる上の血圧と呼ばれますが、心臓が全身に血液を送り出すときの血圧です。拡張期血圧、これはいわゆる下の血圧と呼ばれています。全身に血液を送り出して空になった心臓に肺から血液が入る、そのときの血圧です。
 上の血圧は140を越えると高血圧です。下は90を越えると高血圧です。上も下もどちらも基準を越えるという人がたくさんいます。上が130以下、下が85以下の方は正常です。この中間の方は、正常ではありますが、やや高い血圧ということになります。

高血圧の分類
H-ICHIJISEI  高血圧には一次性高血圧二次性高血圧があります。一次性高血圧は原因がはっきりしない高血圧という意味で、これを本態性高血圧といいます。血圧の高い人の85%から90%がこの本態性高血圧症です。これに対しまして高血圧の原因になるはっきりした病気を持っている場合、これを二次性高血圧と呼んでいます。本態性といいますと何となく専門的な用語ですが、要するに今の医学では原因が分からないということです。医学が進歩するに連れて原因が分かってくれば二次性高血圧ということにになるわけですから、本態性高血圧症の数は段々減ってくるということになるかもしれません。私たちは血圧が高い患者さんを診察しましたときに、まずはじめに二次性高血圧の可能性はないかどうかを考えます。色々な検査をしますのはそのためでもあります。これは原因を診断し、それに対して治療することによって高血圧が治るからです。
 二次性高血圧にはいくつかの種類の病気がありますが代表的なものは表のとおりです。
H-NIJISEI  人の腎臓からは血圧を上げる物質が出ます。これらは生命の維持に必要な物質ですので、人間の体はこれらの物質が出過ぎたり、足りなくなったりしないように調節しています。ただし腎臓の病気になりますと調節がうまく働かなくなって、これらの物質が異常に多く出たりします。ですから血圧が上がるということになります。
 ホルモンの異常でも血圧が上がります。内分泌といいまして人間の成長や新陳代謝に必要不可欠なホルモンを作るところがあります。甲状腺や副腎などです。ここが病気になりますとホルモンが過剰に作られまして血圧が上がるわけです。
 大動脈など大きい血管のどこかが狭くなりますと、心臓はそれに対抗して血液を送り出そうとします。これも血圧を上げる原因になります。
 神経性の高血圧というのもあります。脳腫瘍や脳炎などの病気で脳の中の圧が高まりますと、血圧が上がります。血圧が高い以外に何も症状のない人が調べてみると脳腫瘍だったということもあるわけです。
 ただ先ほどもお話ししましたように二次性高血圧は高血圧の中の1割ぐらいですから、通常は高血圧といいますと本態性高血圧を指すことになります。血圧は年齢と共に上がってきます。若いときは正常でも年齢がすすむにしたがって段々上がってきます。ですから40歳を過ぎて初めて血圧が上がってきた人のほとんどは本態性高血圧です。

高血圧の危険因子
H-KIKEN  危険因子というのは、それを持っている人の方が病気になりやすいという、その”病態(状態)”のことです。ですからこれらの「危険因子」を取り除くことが高血圧の何よりの予防になります。

○家族歴
 両親が血圧が高いとその子どもも高くなりやすい傾向があります。遺伝の問題もありますし、親子は食生活など生活環境が同じだからだと思います。家族歴は予防できるものではありませんが、それでも生活の習慣を見直してそのほかの危険因子を遠ざける努力が大切です。

○肥満
 肥満はコレステロールを上げますし、糖尿病になりやすくなります。心臓にも負担がかかります。標準体重を維持するように心がけましょう。

○高脂血症
 コレステロールは過剰になってくると全身の血管の壁に付着します。これが動脈硬化です。最近はコレステロールだけでなく中性脂肪が高い人も注意が必要と言われています。

○喫煙
 タバコは全身の血管を収縮させますから、高血圧の直接の原因になります。ニコチンは心臓にも直接作用して余計な負担をかけます。タバコは高血圧の危険因子であるばかりでなく、あらゆるガンの原因にもなります。アメリカではタバコを吸う人と肥満の人は出世できないそうです。自分をコントロールできない人間は管理者として失格だからだそうです。

○食塩
H-NAIKUNI  食塩の中のナトリウムという物質が血圧を上昇させます。食塩の取りすぎはまた体内の水分量を多くします。このことも血圧が上がる要因になります。表にあげましたのは食塩を全くとらない国です。 これらの国には高血圧という病気が全くありません。

○アルコール
 アルコールは適量であれば問題ありません。血液の循環がよくなって血圧にも良い効果をもたらします。危険因子になるのは飲み過ぎる人です。飲み過ぎて毎晩酔っている人がどうなるか皆さまの方がよくご存じのことと思います。

高血圧←→動脈硬化

 高血圧が長く続きますと動脈硬化になりやすくなります。動脈硬化とは動脈の壁が固く厚くなる病気です。その結果血管が狭くなり、血液の流れが悪くなります。そしてこの動脈硬化がさらに血圧を高くしていきます。まさに悪循環です。

高血圧の合併症
H-GAPPEI  単に血圧が高いというそれだけなら何も問題がないのですが、血圧が高いとそれが原因で色々な病気を引き起こします。高血圧が続きますと脳の血管が破れたり、動脈硬化によって狭くなった血管が詰まったりして、脳出血脳梗塞を引き起こします。心臓の血管が狭くなったり詰まったりすると狭心症心筋梗塞になります。大きな血管が破裂することもあります。大動脈瘤破裂です。いずれもたちまち死に直結する病気です。腎臓に障害が現れますと腎硬化症になります。腎臓の機能が悪くなって、いずれは人工透析を受けるということになります。下肢の血管が詰まってやがては壊死におちいる閉塞性動脈硬化症という病気もあります。
 高血圧症というのは恐ろしい病気です。

高血圧の治療
H-TIRYO  予防はもちろん大切なことですが、それでも高血圧になってしまったら治療しなければいけません。治療しなければならない血圧の目安として、以前は拡張期血圧(下の血圧)が100以上になったらとか、160/95を越えたらとか言われましたが、最近ではもっと早いうちから、140/90以上の方は治療した方がよいという考え方が強くなっています。早期治療ということです。合併症の予防という意味でも大切です。

第一は食事療法です。
H-SYOKUJI  食塩の摂取量は一日7-8グラム程度にします。秋田県の食塩摂取量はかつて全国一でした。20グラムを越えていました。ですから高血圧症もその合併症である脳卒中も全国一でした。秋田県は昔から漬物などの塩辛い食事しかなかった貧しい県であったことが一番の原因であると思います。今は一日12グラム程度ですがそれでも多いほうだと思います。
 減塩の次は減量です。太っている人は2-3Kgやせると血圧も下がってきます。常に標準体重を頭に置いて肥満度を10%以内に押さえるようにしましょう。

(身長ー体重)×0,9=目安体重

肥満度 = (現在体重−目安体重)×100
目安体重


 若くても肥満している人は中年以降、高血圧になりやすいですから気を付けないといけません。間食、夜食、糖分の取りすぎに注意しましょう。高血圧症の人の食事では食塩以外は特にひかえる必要はありません。ただしコレステロールが高い人は、心臓病の予防のために、コレステロールを多く含む食品は避けた方が賢明です。

第二は運動療法です。
 運動するとその直後には一時的に血圧が上がりますが、定期的に何週間も運動を続けると血圧は下がります。激しい運動はあまり効果がありません。ウオーキング、ジョギング等の比較的ゆるやかな運動を少なくとも週に3回、1回に30分以上行う必要があります。

第三は薬物療法です。
 境界型程度の軽い高血圧の人は食事療法や運動療法から始めますが、下の血圧が90以上ある人や危険因子が多い人などはすぐに下げないといけません。薬にも色々な種類があります。高血圧の患者さんには危険因子の有無、合併症の有無などを調べまして、その人に合った薬を出すようにしています。少量投与から始めまして安定期に入るまで調節を続けます。今は昔と違って副作用の少ない薬がたくさん開発されています。血圧が安定しますと薬の量を減らしたり、休薬することもできます。

まとめ
 高血圧はもっとも多い病気です。普段から危険因子を念頭に置いて予防していくことが何よりも大切です。高血圧症になってしまった場合は合併症にかからないためにもきちんと治療しましょう。安定期に入れば薬も少なくてすみますから、高血圧をそれ以上悪化させないためにも、食事療法や運動療法もあわせて続けていきましょう。


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心臓病の診断について

 今日おいでの皆さまはほとんどの方々が心臓の手術を受けておられます。そしてこうやって定期的に集まって勉強していらっしゃいますから、心臓の病気に関しまして大変お詳しいと思います。私もお話がしやすいのではないかと安心いたしております。心臓病の診断につきましてなるべく分かりやすいお話を心がけますが、特殊な用語や写真が入ってきました場合は、単に眺めて聞き流してくださるだけでもよろしいかと思います。

 今はたくさんの高度な医療器械が発達しております。しかしながら患者さんを前にしました場合、まず初めにしなければならないことは昔から変わっていません。
 病歴や病状を詳しく尋ねます。それを踏まえて一般的な診察をします。顔色や脈拍などを拝見しましてから、聴診をし、全身を診察します。血圧を測定します。これだけでも色々なことが分かりますし、おおよその診断をつけることが出来ます。最近はこれらの基本的な診察をおろそかにして、つい初めから機械に頼ってしまうという風潮が強いですが、そうならないように私も自分を戒めなければならないことだと思っています。

 一般的な診察の次に行いますのは胸部のエックス写真心電図です。これらは心臓病の検査の基本です。どちらかひとつだけ撮るということはありません。1895年にレントゲンがエックス線を発見しました。1900年にはオランダのアイントーヘンという人が心電計を発明しました。胸部エックス線撮影は肺だけではなく心臓病の診断をもはるかに容易にしましたし、心電図は心臓の拍動を電気現象として記録するという画期的な発明です。これらを契機に近代循環器病学は飛躍的な発展を遂げましたが、百年後の今も心臓病の基本検査であることに全く変わりはありません。
MUNE2 MUNE1  心臓病の有名な症候として「心不全」があります。これらはあらゆる心臓病の結果として起こり得ます。心不全といいますのは、心臓の収縮力が弱くなって機能不全の状態になることです。臨床的にも推定はできますが、明確な診断は胸部エックス線写真がないと出来ません。写真は正常例と心不全例の比較です。心不全では心臓の影が著しく大きくなっています。
 心臓病のもうひとつの有名な症候に「不整脈」があります。あらゆる心臓病が不整脈の原因になり得ます。不整脈にはいろいろな種類があります。心電図は不整脈の診断において最も威力を発揮します。図は不整脈の中のひとつであります”期外収縮”の例です。何回かに一回予定外の拍動が起きますが、心電図で明確に現れます。

ECG

 患者さんが動悸を訴えました場合、記録した心電図に現れないこともあります。その時はホルター型連続記録心電計という装置を着けていただいて24時間の拍動のすべてを記録して不整脈の解析をします。不整脈が出ましたら治療が必要な不整脈かどうかを診断します。さらに何か原因になる病気がないかどうか検査をすすめていく必要があります。
 心電図では心肥大の程度や後ほどお話しします心筋の虚血の程度を間接的に知ることもできます。さらに狭心症におきましては、運動負荷をすることによって虚血が誘発され、診断できることもあります(負荷心電図)。

EM MS  昭和48年頃から心臓超音波検査が臨床的に広く行われるようになりました。超音波検査は心臓に限らず、消化器領域や婦人科領域でも多用されています。ただ、心臓の場合は心臓の動きとともに様々な計測が出来ます。心電図の発明に準ずるほどの画期的な検査法です。心電図が心臓の電気的な収縮過程を記録するものであるのに対して、超音波検査は心臓の機械的収縮過程を反映します。ポンプとしての心臓の機能が非常に簡単に測定できますし、ドップラーといって血液の流れる方向も分かります。検査に伴う患者さんへの危険性は全くありません。
 超音波検査が最も有用性を発揮しますのは、心臓弁膜症の診断です。写真は僧帽弁狭窄症の例ですが、正常と比べて僧帽弁の動きが明らかに違うことがおわかりいただけると思います。大動脈弁閉鎖不全症超音波断層写真です。AR カラーで見ますときれいに診断することが出来ます。
 先天性心疾患のうちのひとつであります心室中隔欠損症の超音波断層写真です。 これは心臓の部屋を分ける隔壁(心室中隔)に生まれつき穴があいている病気ですが、その穴を通じて異常な血流が見られます。 VSD  心臓の壁(心筋壁)の厚さや動き方もよく分かります。ですから心不全や、心筋が変性する病気であります心筋症(肥大型、拡張型)の診断におきましても非常に有用です。

 超音波検査とほぼ時期を同じくして心臓カテーテル検査が普及いたしました。心臓カテーテル検査は心臓病の治療方針を決定するための最終診断、確定診断を目的として行います。よほどの重篤な緊急例を除いて、心臓カテーテル検査を省略して手術を行ったりすることはありません。

AH 虚血性心臓病
 生活様式の欧米化に伴って虚血性心臓病(動脈硬化性心臓病)は年々増加の一途をたどっています。心筋に血液(酸素)を供給している血管を冠動脈と言います。この冠動脈が動脈硬化などによって狭くなり、心筋の必要血液量を供給出来なくなると狭心症になります。狭くなった程度によっていろいろな種類の胸痛(狭心痛)が起きます。狭くなったところが詰まると心筋が壊死に陥って心筋梗塞になります。壊死に陥った心筋は働かなくなりますから、心臓の収縮力や機能は当然低下します。心筋梗塞は急性期の死亡率が高く、10〜30%の方が死亡します。ですから狭心症が疑われたら早いうちに検査をする必要があります。 A1
A5 心臓カテーテル検査で冠動脈を造影しますと、冠動脈のどの部位がどの程度細くなっているかがはっきり分かります。心筋梗塞に移行する危険性があるかどうかも分かります。薬物療法を続けていくか手術療法に踏み切るかの選択も容易です。
 冠動脈の診断以外に心筋の収縮力の程度も分かります。写真は左心室の造影です。収縮期と拡張期の違いがおわかりかと思います。 A3 心室の収縮が不十分で収縮期と拡張期との差があまりなくなると心不全になりやすいということになります。ですから心臓カテーテル検査は虚血性心臓病での心機能の測定にも有用です。

弁膜症
 心臓は簡単に言えば血液を送り出すポンプの役目を果たします。送り出された血液が逆流しないように弁が4つあります。その弁がいろいろな原因で変性し、狭くなったり(狭窄症)、閉まりが不十分になったり(閉鎖不全症)するのが弁膜症です。血液の流れが停滞したり逆流したりして心臓のポンプ機能に支障を来し、ひどくなれば心不全になってしまいます。弁膜症は超音波検査でほとんど診断がつきますが、重症度や手術適応などを決めるために心臓カテーテル検査が必要となります。弁膜症は時期を逸すると手術をしても心機能が回復しなくなってしまいますから早期診断が重要です。

心筋症(肥大型、拡張型)
 先ほど述べましたように心筋自体が肥大したり、変性して逆に薄くなったりする疾患です。心筋の変性によって心臓の機能に異常をきたしていないか注意深い観察が必要で、超音波検査が有力な診断方法ですが、心臓カテーテル検査による診断もあわせて行う必要があります。

先天性心疾患
 超音波検査でも異常な血流の存在は分かりますが、その程度までは詳細には分かりません。たとえば穴(欠損孔)が開いている場合にそれを放置してよいのか、手術で塞がなければいけないのかを判断するのに心臓カテーテル検査は必要不可欠です。

不整脈
 不整脈が出現した場合、その治療方針を決める上で心臓カテーテル検査が有用なことがあります。より精密な診断を目的としまして心内心電図を記録する方法があります。その不整脈は放置してよいのか、薬物療法が必要なのか、さらには心臓ペースメーカー治療が必要なのか等について判断します。

手技
 心臓カテーテル検査は皆さますでに何回か受けられていますのでお分かりと思いますが、肘もしくは脚の付け根に局所麻酔を行って血管(動脈および静脈)を穿刺します。血管内に細い管(カテーテル)を挿入して心臓まで進め、いろいろな測定や造影を行います。検査中は患者さんはただ仰向けで寝ているだけでほとんど痛みは感じません。終了後はカテーテルを抜去し、穿刺部位を圧迫します。検査内容により若干の差はありますが検査時間はおよそ1時間足らずです。 CATHETER 検査中は心電図、血圧の監視等、万全を期しており速やかな対応がとれるようになっていますから、危険性は全くと言っていいほどありません。合併症は極めてまれなものとなっています。検査終了後は約5時間ほどの安静が必要です。

まとめ
 お話ししましたように心臓病の診断には、一般的な診察から始まって胸部エックス線写真、心電図、超音波検査などさまざまな検査を用いますが、病気を治すには診断が確実に行われることが必要です。心臓病の確定診断を得て治療方針を決定していくためには、今や心臓カテーテル検査が必要不可欠であることを強調したいと思います。大変な検査だとあまり重大に考えずに、気楽な気持ちで受けることが心臓病の早期治療につながるとお考えいただきたいと思います。
 検査の為には入院をしなければなりませんが、当院では一泊二日の日程で行います。現在のところ当院の「心臓ドック」には心臓カテーテル検査は含まれていませんが、近い将来、我国においても冠動脈造影は日常的な一般検査として施行されるようになると、私は思っています。
(秋田県「心臓友の会」での講演に加筆、訂正を加えました)



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学童を生活習慣病から守るために

 「学童を生活習慣病から守る」というテーマでお話をさせていただきますが、「生活習慣病」につきましては今や新聞やテレビで毎日のように解説されていますので、皆様のほうがはるかによくご存じのことと思います。したがいまして、今日は私のお話というよりも、皆様の豊富な知識を整理していただきます機会になれば幸いと考えております。
 「生活習慣病」とは何か。「成人病」というと分かりやすいかも知れません。すでに皆さまご承知のように3年ほど前に「生活習慣病」という言い方に変わりました。「成人病」という言葉は昭和30年代から使われている用語です。主として「心臓病」、「脳卒中」、「がん」など、40歳前後から急に死亡率が高くなる、しかも死亡原因の中でも高位を占める、40〜60歳位の働き盛りの人に多い、これらの病気に対して「成人病」という名前が付けられました。
 ところが平成8年に厚生省が、生活習慣を改善することにより病気の発症・進行が予防できる、そういう認識を国民に持ってもらいたい、そして予防や治療に結び付けていきたい、そういう意味で国民の生活習慣に着目しまして、いわゆる「生活習慣病」という言葉を導入していこうと提唱したわけです。
 私も思いますが、「成人病」と言ってしまうと「おとなだけの病気」ということになってしまいます。ところが「成人病」というのは子どもの頃からすでに始まっている、そのことがだんだん解ってきました。最近は学童などの健康調査をやってみますと、肥満はもちろんですが、糖尿病、高血圧、そういう病気が少なからず見つかると言われています。そういう病気に対してこれまでは「小児成人病」という言葉を使っていますしたが、やはり言葉の使い方が不自然です。このような言葉の矛盾をなくするためにも大人だけに限定されない用語にする必要があるんだと思います。
 大人だけではなく子どもにも当てはまる病気、そしてその病気が生活習慣に由来する「生活習慣病」、分かりやすい用語だと思います。

 そこで、「生活習慣病」には、どのような病気が含まれるのでしょうか。これには次のようなものがあります。
先ほども出ましたが、
心臓病(とくに狭心症や心筋梗塞)
脳卒中
がん

これらの病気、特に心臓病や脳卒中の原因になりますのがいわゆる動脈硬化です。そしてこの動脈硬化を進行させる病態があります。医学的にはこれを「危険因子」といいます。病気を悪化させる因子という意味です。 これには、
高血圧
糖尿病
高脂血症
肥満

があります。
 この四つには今や「死の四重奏」という恐ろしい名前が付いております。
 「生活習慣病」にはさらに、慢性気管支炎、胃潰瘍、肝硬変、骨粗鬆症、そのほか日常よく耳にしますたいていの病気が含まれております。
 今挙げましたこれらの病気のうち、「心臓病」、「脳卒中」、「がん」のいわゆる3大成人病(正確には3大生活習慣病と呼ばなければいけませんが)、これが国民全体の死亡原因の約6割を占めております。
 成人病の成因は60%が生活習慣によるもので、20%が環境、あとの20%が遺伝によるものであるといわれています。したがって生活の習慣や環境を改善することによって80%は予防や治療が可能ということになります。
 後ほどまたお話ししますが、普段から食生活の習慣、運動の習慣に気を付ける、タバコやお酒の習慣を見直す、さらにまた、健康診断などで病気の早期発見、早期治療に努めることが大切であるということになります。

 生活習慣病予備軍について少しお話しいたします。予備軍というのはいわゆる子どものことです。子どもの時期を何期かに分けて考えてみます。

幼児期
 こういう説明になりますと私は全く素人で養護教諭の先生はじめ先生方のほうがよほどお詳しいと思います。幼児期は発育の旺盛な時期です。生活面での色々なことを周囲から吸収する大切な時期です。周りの大人が偏った食事をしたり、外で運動したりする機会が少なければ当然子どもの生活習慣に悪影響を与えます。この時期の肥満は次の学童期や思春期の肥満につながりやすいといわれています。将来の生活習慣病の起源はここにある、ともいえる重要な時期であります。周囲の大人はこの点に強い自覚を持って子どもを育てていく必要があります。

学童期
 幼児期に作られました生活習慣の完成期になります。食生活の習慣、食べ物の好き嫌い、運動の習慣などが固まってくる時期でもあります。例えばテレビゲームで夜更かしをしたり、朝ごはんを食べないというような不健康な生活習慣が定着するのもこの時期です。ただこの時期の子どもは学校に行っていて理解力も高まってきます。学校保健などを通じまして健康についてのいろいろな教育を行うことができます。担任の先生や養護教諭の先生の責任も重大になると思いますが、もちろんすべて学校の責任にしないで家庭でも根気よく教えていく必要があると思います。

思春期
 幼児期、学童期に作られました生活習慣が定着する年齢です。例えばこの年齢で肥満がありますと糖尿病や高脂血症などの生活習慣病を合併しやすくなります。これは体の発達に非常に良くありません。思春期には色々な面での問題意識も発達してきます。周囲の大人のまねをするのかどうか知りませんが、喫煙や飲酒に走るなど複雑な問題がおこってきます。タバコはガンの原因になるだけでなくて非行の原因にもなります。一旦非行に走った子どもに生活習慣の話をしてももはや聞く耳はありません。親にとりましても学校にとりましても非常に頭の痛い年齢だと思います。私の子どもたちの例を挙げますとこれ以上お話をする資格がなくなりますので言わないことにいたします。

 それでは子どもたちを生活習慣病から守るためにはどのように取り組んだら良いのでしょうか。基本的には大人と同じです。
 生活習慣病を防ぐ「5つのポイント」をあげることにします。
 健康づくりに特効薬はありません。何よりも大切なのは毎日の積み重ねです。毎日の生活習慣を改善していくしかありません。不幸にして万が一病気になってしまってもあきらめないで、やはり毎日の生活習慣を改善していくしかありません。

ポイント1 食生活
○バランスよく食べる。
栄養の片寄りを防ぎます。
○食べ過ぎに気をつける。
お腹を八分目にして消化を良くします。
○動物性脂肪をとりすぎない。
動物性の脂肪は、血液中のコレステロールを増やして、動脈硬化を促進する働きがあります。コレステロールを減らす働きをする魚の脂肪や植物油をたくさん取りましょう。
○野菜料理を増やす。
野菜は太る心配がありません。ビタミンや食物繊維が豊富に含まれています。コレステロールの吸収を抑制します。毎日食べましょう。
○調理を工夫して減塩する。
減塩は高血圧を予防します。
○間食をとりすぎない。
現代の子どもは豊かな食品に囲まれていてほとんどの栄養が過剰になっています。おやつを食べすぎて、エネルギー過剰にしないよう配慮します。食生活に欠かせない問題としまして小児の肥満があります。肥満には遺伝も関係しますが環境が大きく関与すると言われています。小児肥満が必ず成人肥満となるわけではありませんが、幼児期の肥満は一旦なると治療が困難です。そうならないような生活習慣を身につける必要があると思います。
 繰り返しますが、肥満は将来糖尿病や高血圧なりやすくなります。大事なことは親が食生活の模範を示すことだと思います。子は親の嗜好や食生活を見て成長します。

ポイント2 運動習慣
○歩くことから始める。
最近はいわゆる生活習慣病の予防のために、あるいは不幸にして病気になってしまった方でも、病気の進行を防ぐためにいわゆるウオーキングが広く普及しております。どこででも出来ますしお金もかかりません。
○1日に15分は軽い体操をする。冬は室内でも出来ます。
○子どもは運動不足を防ぐために外で遊ぶ。
子どもにとりましても遊びは非常に大切です。幼児期から積極的に外遊びをさせた方がいいと言われています。外で遊ぶということには学童期におきましても色々な効果があります。
 @ 生活習慣病のリスクが少なくなることのほかに、例えば、
 A 体力が向上し、体の成長を促します。
 B 運動神経や反射神経も発達します。

ポイント3 疲労回復
 疲れを貯めないということです。1日の疲れはその日のうちにとります。1週間の疲れは休日にとります。生活のリズムを意識的に整える必要があると思います。子どもの疲労回復も大切です。睡眠時間は十分にとります。習い事や塾通いも大切かも知れませんが、小学生は10時間は寝なければいけないそうです。ただ、今はテレビやゲーム、子どもたちにとって面白いことがたくさんあります。やめろと言ってもあまり効きません。外での遊びも大事、寝るのも大事だとしますと、もしかして、これは半分冗談ですが、今の子どもたちを生活習慣病から守ろうとしますとあまり勉強させる時間はないかも知れません。我々が子どもの頃はテレビも室内ゲームもほとんどありませんでしたから、むしろ良かったのかも知れません。もっとも食生活も今とは違いましたから生活習慣病などという発想もありませんでした。

ポイント4 節酒
○適量を守る。子どもは親の生活態度を毎日見ています。
○週に2日はアルコールをさけて肝臓を休ませる。アルコールは適量を超えると、肝硬変から肝臓ガンになるという問題もあります。食生活のバランスを崩しますし、運動の意欲も低下します。

ポイント5 禁煙
 煙草はあらゆるガンの原因になります。肺ガン、喉頭ガン、胃ガン、その他たくさんあります。すべてのガンはタバコが原因と言い切る人さえいます。心臓病や喘息の原因にもなります。
○吸いたい気持ちを抑えて、禁煙、節煙の努力をする。
○他の人のタバコの煙に気をつける。
どうしても吸いたいときは周りの人に迷惑がかからないようにする。 病気になりたかったら一人でなってくれということです。

 以上「5つのポイント」を挙げましたが、この5つのことを大切にしますと生活習慣病をかなりの割合で予防できるという結論になります。
 ただ私の実感としましては、理解するのは簡単ですがすべてを実行するのは非常に難しいと思います。大人にも子どもにもいわゆる人間としての欲望というものがありますし、人との付き合いもあります。毎日平和ならいいですが、日常生活を乱されるような出来事がしょっちゅうあります。そうかといって、人間関係を一切断ってマイペースを保っていけば変人扱いされかねません。したがいまして、お話ししましたようなことを、出来るときにはする、なるべく心がける、というあたりで妥協して、小さな努力を積み重ねていくことが大事かと思います。
(平成12年12月12日 能代市立朴瀬小学校にて)


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心臓ペースメーカーのお話

 いわゆる人工心臓ペースメーカーは近年急速に普及しております。皆さま、あるいは皆さまの家族の方の中にもすでにこの手術を受けられた方がいらっしゃると思います。1958年にスエーデンで初めて臨床例に応用されましてから約40年になります。私は昭和47年に、当時研修しておりました横手市の平鹿総合病院で初めてこの手術を見学いたしましたが、これが秋田県では第1例目か2例目ではなかったかと記憶しております。

解剖と生理
 心臓には刺激伝導系という、電気が伝わる経路があります。PMI1  皆さまご存じのように心臓は4つの部屋に分かれています。右心房、左心房、右心室、左心室です。このうちの右心房という部屋の中に洞結節という部分があり、これが刺激伝導系の出発点です。ここで1分間に70回とか80回とかの割合で自動的に電気が発生します。歩調取り(本来の意味でのペースメーカー)といいます。この電気刺激が一定の経路をたどって房室結節というところに入り、さらにヒス束、右脚、左脚、プルキンエ線維を通って心臓の筋肉全体に伝わります。そして心臓が収縮して全身に血液を送り出す、拍動するというわけです。
 安静状態では皆さまの心臓は、個人差がありますがおよそ1分間に70回から80回前後の拍動をします。心臓の拍動は全身のいたるところの血管に脈として伝わりますから、たとえば手首の血管の脈の数を数えますと拍動の回数は誰にでも分かるわけです。運動したり、心配したり、怒ったりしますともっと増えます。これは体力を使ったり感情的になったりという、人間の体がたくさんの血液を必要とする状態になりますと脳や神経がそれを感知して、先ほど話しました刺激伝導系の洞結節に命令を送るからです。正常な人間の体はどんな状態の時にも常にそれに必要な血液、つまり必要な酸素を心臓から供給されるという仕組みになっております。

不整脈の分類
PMI3  この刺激伝導系のどこかに故障が起きてうまく働かなると、皆さまご存知の不整脈という病態になります。一口に不整脈といいましても色々な種類があります。簡単な分類の仕方を紹介いたします。
 少し専門的な用語になりますが、頻脈性不整脈といいますのは脈が速くなる種類の不整脈、徐脈性不整脈は脈が遅くなる種類の不整脈です。期外収縮といいますのは不整脈の中でも最も多く見られる種類のもので、心臓の正常な収縮が続いているときに、次に予想される時期より早く収縮してしまう状態をいいます。図。致命的不整脈は、読んで字のごとく、それ自体が死を意味するほどの重篤な不整脈のことです。

徐脈性不整脈の種類
PMI4  心臓ペースメーカーは主にこのうちの徐脈性不整脈の治療に用いられます。
1)洞結節がうまく働きにくい病態
洞停止といいます。電気の発生、つまり心臓の拍動は何回かに1回休みます。
2)洞結節から房室結節への伝導がうまくいかない状態
洞房ブロックといいます。心臓は2回に1回とか3回に1回とかの割合で拍動を休みます。 1)と2)を合わせて洞不全症候群といいます。
3)房室結節以下の伝導が途絶する状態
房室ブロックといいます。途絶しても刺激伝導系のヒス束あるいは右脚、左脚以下の部分か ら電気が発生して心臓が収縮しますから心臓がすぐに止まるということはありませんが、脈は非常に遅くなります。房室ブロックは1度から3度まで3段階に分かれますが、約半分の房室ブロックはきちんと治療しなければなりません。

症状
 脈が遅くなりますと、全身に送られる血液の量が少なくなります。特に脳に酸素が足りなくなりますから、眩暈がしたり意識がなくなったりします。これは非常に危険なことです。また心臓の拍動が不規則になりますから動悸がすることもあります。

診断
 不整脈の診断は心電図を記録することによって行います。不整脈が時々しか出ない方、夜だけしか出ない方もたくさんいらっしゃいます。ですから患者さんに症状を聞いて不整脈の存在が予測されました場合は、ホルター型心電計といいまして、24時間連続して心電図を記録できる装置を付けていただいて確認いたします。
 先ほど申し上げました徐脈性不整脈と診断されれば、治療は人工心臓ペースメーカーの植込みしかありません。ペースメーカーが発達する以前は薬物療法が行われましたが、薬は24時間安定して効くわけではありませんので安全確実な治療というわけにはいきませんでした。

手術法 PMI5
 左右どちらかの鎖骨の下を数センチ切開します。そこの静脈を経由して右心室に電極カテーテルを入れます。右心房に入れる場合もあります。電極が固定されていることを確認し、切開部にペースメーカー本体を入れて皮膚を縫合すれば終わりです。手術は非常に簡単です。局所麻酔で約30分ほどで終わります。皮膚の下に入っていても患者さんにはほとんど違和感がありません。
 当初の人工ペースメーカーには水銀電池を使用して重さは200グラムもありました。電池の寿命も2年ほどでしたが、今はリチウム電池が使われ、20−30グラム程度まで小型化されて、寿命も7年以上になってきました。自然な心臓に近い状態を維持するために、発熱時や運動時には脈拍が増えるように設計されたペースメーカーも普及しております。
 当病院では年間約30人の患者さんに人工心臓ペースメーカーの植込み治療を行っております。

PMI2 附記
 すでに心臓ペースメーカーが入っている患者さんは3ヶ月に1回ぐらいの割合で定期検査を受けましょう。当病院では毎日行っております。電池の寿命は約7年ですが個人差がありますから植込み後5年以上経過した場合は、電池の交換も念頭に置いて厳密にチェックを行います。
 強い電磁波を発生する場所は注意しましょう。発電施設、テレビやラジオの送信塔には近づいてはいけませんし、高周波、低周波治療器も避けなければいけません。携帯電話の電磁波は比較的弱いですが、安全のためペースメーカーの装着部位とは反対側の耳で聞くようにしましょう。


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閉塞性動脈硬化症について

 下肢の痛みは皆さんが日常頻繁に遭遇する症状です。この中には腹部や下肢の血管が狭くなって血液の流れが悪くなり、その結果様々な障害を起こしてくる閉塞性動脈硬化症という病気が多く含まれています。食生活の欧米化や人口の高齢化などによっていわゆる動脈硬化症が著しく増加していますのは皆さんご存知のとおりです。したがいましてこの閉塞性動脈硬化症も激増しています。

症状
病状の強さによって4期に分けます。
1期しびれ・冷感動脈硬化が原因で下肢の血液の流れが悪くなります。運動や歩行のあとなどにしびれや冷感がみられます。ただし症状は軽度で安静時は無症状です。
2期間歇性跛行(はこう)閉塞性動脈硬化症の特徴的な症状です。一定の距離を歩くと下肢(主にふくらはぎ)に痛みが出て歩行不能になります。休むと良くなります。安静時には血流が保てても歩行時には下肢への十分な血液の供給ができなくなり、酸素が足りなくなるからです。
3期安静時疼痛 歩行時だけでなく安静時にも血流が不足し、冷感が強くなったり疼痛が生じたりします。必ず治療が必要です。
4期潰瘍・壊死血流がさらに悪くなって下肢の皮膚に潰瘍や壊死ができます。治りも悪くなり患部が広がります。早急に適切な治療を始める必要があります。

 1期の場合でも放置せずにきちんとした検査が必要ですし、2期以上になると出来るだけ早く検査をして治療を進めていかなければなりません。

診断
ASO1  以上のような症状があれば診断は容易ですが、病院ではそのほかに次のような検査を行います。
○下肢の視診・触診
 下肢の皮膚の色は正常かどうか、足に触ってみて冷たくないかどうか、冷たさに左右差がないかどうかなどを調べます。
○下肢の脈拍の触知(写真)
 脈拍の触知は大腿動脈、膝窩動脈、足背動脈などで行います。特に足背動脈の触知は視診や触診と合わせて皆さんの誰にでもチェックできる簡単な診断法です。
○下肢血圧測定
 下肢の血圧は上肢の血圧より通常は少し高めです。下肢の血圧の方が上肢より低ければ注意が必要です。
ASO3 ○指先脈波(図)
 下肢(指先)の血流の程度や血流の左右差の有無についておおよその見当をつけることが出来ます。図の脈波では右に比べて左の血流が低下していると考えられます。
○血管造影(動脈造影)
 診断を最終的に確定するためには必ず行います。狭窄部や閉塞部がはっきり分かりますので、治療方法や手術方法を選択していく上で必要不可欠です。手技的には容易で患者さんの負担もほとんどありません。

予防
 危険因子を避けなければなりません。一般的ないわゆる動脈硬化症と同じです。高血圧症高脂血症糖尿病などの予防に努めます。このような危険因子をすでに持っている方はその進行を防ぐ意味で治療を続けていきます。また喫煙も大きな危険因子のひとつであることは論を待ちません。

合併症
 動脈硬化は全身で起こる病気です。ですから不幸にして閉塞性動脈硬化症と診断されましたら、下肢だけでなく体のほかの部分にも動脈硬化の症状が現れていないかをチェックしていく必要があります。冠動脈に動脈硬化が起きれば、虚血性心疾患つまり狭心症心筋梗塞になりやすくなります。脳の動脈に動脈硬化が起きれば、脳血管障害つまり脳出血脳梗塞になりやすくなります。大血管に動脈硬化が起きた場合の大動脈瘤なども恐ろしい病気のひとつです。動脈硬化の進行は絶対に防がなければいけません。

治療
○食事療法
 食塩やカロリーの摂取量を調節して危険因子の悪化を防がなければなりません。
ASO2 ○運動療法
 閉塞性動脈硬化症では歩行運動がことのほか大事です。毎日一定の運動をすることによって血圧を安定さ せる効果があります。肥満を改善し、血糖やコレステロール、中性脂肪の値を改善します。さらに歩くことによって下肢の狭くなりつつある血管の周囲に細い血管が発達(側 副血行)して下肢全体の血流が豊富になり、軽症の閉塞性動脈硬化症であれば症状は次第に改善します。
○薬物療法
 症状が軽い場合は血管を広げる薬(血管拡張薬)や血液をさらさらにして流れを良くする薬(抗凝固薬)で改善します。飲み薬で十分な効果がないときや閉塞性動脈硬化症が進行している場合は注射薬で血管を広げる方法もあります。入院が必要です。
○カテーテル療法
 薬物療法で十分な効果がない場合に行います。狭くなった血管の中に細い管(カテーテル)を入れて風船で広げたり、厚くなった血管内膜を削り取ったりする方法などがあります。手技的にも簡単で、手術と比べて患者さんの負担が軽いという利点があります。
○手術療法
 血管の狭窄部や閉塞部を直接広げたり、別の血管で置換したり、人工血管などでバイパスを作ったりします。中でもバイパス術(図)は症状の劇的な改善が得られる場合が多く大変有用です。狭窄や閉塞の部位によって局所