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能代駅

 秋田杉の香りがどこからともなく流れてくる能代は古くからの木材産業の街だ。大きな製材所があちこちにあり、秋田杉の都というのがうなづける。見どころは全長14Kmの見事な黒松の林「風の松原」、勇壮豪華な夏祭り「能代七夕ねぶ流し」、そしてもう一つ有名なのが「能代工業高校のバスケットボール部」。インターハイ、国体と連続全国制覇をなしとげた偉業は能代市民の誇りだ。あちこちにあるストリートバスケットが「バスケの街」を感じさせる。
 はまなすの鮮やかなピンクの花が印象的な能代の海辺。全長1200mの護岸に市民が思い思いの絵を描いたはまなす画廊は能代の新名所。海と空をバックにした市民の自由な絵は心をおおらかにしてくれる。
 能代駅は五能線の起点。いよいよ出発だ。五能線の見どころは潮騒八景と津軽富士八景につきる。つまり、能代から岩館、鯵ケ沢までは日本海の表情や雲、風を肌に感じながら、鯵ケ沢から弘前までは岩木山を車窓に見ながら、麓をぐるっと周り、沿線の季節を楽しむことが出来る。


八森駅

 果樹園が連なる沢目周辺は梨の名産地。収穫期には「直売」の看板も出て、通りすがりに買って行く人も多い。
 ポンポコ山タヌキ共和国はハーブの香りあふれるのどかな国。「もうかる農業」をめざしてタヌキとハーブを主人公にして村が事業を展開している。ポニーやタヌキ、めん羊などと遊べるポニー園は子供たちに人気。女性に人気なのがハーブ。カモミールやミントの花も可憐だが、初夏、ラベンダーの花が咲く頃が一番の見頃。
 八森の海も夕景の美しいところだ。雄島のシルエットが赤い夕日に浮かぶ光景はまさにロマンチックの一語に尽きる。そんな旅情を誘う風景がここから連続する。いよいよ潮騒編のはじまりだ。


岩館駅

 ウン?線路にまたがる屋根付歩道橋が見えてきた。ハタハタ館とバッテリーカーランドを結ぶ歩道橋だ。ハタハタ館の三階は温泉になっていて、行楽がてら立寄る人も多い。一階は八森町の特産品の売店や食堂がある。
 このルートは津軽の殿さまも通ったところらしく、国道沿いに「お殿水」という湧き水がある。「この水は美味じゃ。甘露、甘露」カンロ、カンロとたいそうお褒めになったそうだ。(お殿さまと一緒に記念写真を撮れる)白神山地から流れ出た水は誰でも飲めるようになっていて、タンクを持って汲みにくるドライバーもいる。
 左に日本海、右に白神山地を見ながら青森県に入る。


十二湖駅

 ガンガラ穴やゾウ岩の手前、十二湖駅で下りてみよう。このへんでは少し趣のちがった世界、岩崎村サンタランドへ。行く途中、橋の門柱でサンタさんがランプを持って出迎えてくれた。サンタランド全体が北欧調の雰囲気で統一されていてなかなかいい。木肌のぬくもりが感じられるログハウス、ラップ人の住まいだというコタ、サンタグッズ、絵本から抜け出たような送迎バスなど、「サンタさんの世界へようこそ!」100パーセントそんな気分にさせてくれる。
 さらに奥には十二湖リフレッシュ村があり、ここは本格的な自然を満喫したいという人にぴったり。
 ニッコウキスゲの群生地椿山は今や海辺のリゾート地として定着しつつある。北欧調のコテージと見晴らしバツグンの展望風呂で気分も爽快。豪快な不老不死温泉の露天風呂も相変わらずの人気だ。
 夕日海岸を走ってさらに北へ。やたらに大きな水車が目についた。みちのく温泉の日本一の水車だ。実はこの温泉、ある種のマニアには有名なのだ。何と、五能線の線路のすぐそばに露天風呂が。だから、時刻表を見て風呂に入る客が多いとか。残念ながら列車の方からはスピードが早過ぎてチラリとしか見えない。


深浦駅

 夕日海岸をキャッチフレーズにしている深浦町。なるほど、夕日を反射して輝く波頭、黄金色に染まる岩礁。こんな海を見ていると遠く旅に出かけたくなるような気がする。こんなロマンチックな海を底まで見てしまおうというのが海中探勝遊覧船「ミエ〜ルふかうら」。ガンガラ穴や椿山を周遊するコースで深浦港のピアハウスから出航している。ピアハウスでは地元で捕れた活魚や特産品の販売や「さきイカ」の実演も。
 上方と北海道を結ぶ北前の港として栄えた深浦には北前船が残した文化、史跡の数々がある。なかでも、文化遺産としても貴重なものが円覚寺だ。遭難の危機から生還した漁師たちが奉納した「まげ額」や、越前の豪商が奉納した日本最古の船絵馬などが残されており、境内の立派さにも往時の深浦港の栄華がしのばれる。
 食欲の秋に催される「チャンチャン祭り」は漁師町としての深浦を感じる祭りだ。以前、北海道がニシン場として盛んだった頃。出稼ぎのヤン衆が親方の目を盗んでチャンチャンコを頭からかぶり、スコップで焼いて食べたというのがチャンチャン焼。鮭と野菜を鉄板で豪快に焼いて味噌で味付けするのだが、北海道でも、そしてここ深浦でも名物というところに人間の歴史が感じられて面白い。


千畳敷駅

 次第に岩礁が多くなり、奇岩も目に付くようになってきた。いよいよ潮騒編の醍醐味都も言うべき個所にさしかかってきた。
 風合瀬と大戸瀬の間にある鳥居崎は風の強いところだ。地元の人に聞いたら、地形的にそうなのだという。「ここから天気が変わるはで」とのこと。真冬の厳寒期には波の花が舞うという。しかし、この辺は五能線では数少ない砂浜だ。真夏なら心地良い風になるのだろう。
 岩の下部が丸くえぐれている「かぶと」岩。岩の間から波が吹き飛ぶ潮吹岩。そして千畳敷。寛政四年(一七九二)の 地震で生じたという岩棚だ。この広大な岩棚を見た殿様が千枚の畳を敷いて酒宴を催したという。本当、天気の良い日なら寝ころがってもいいような岩棚だ。今は殿様ならぬ釣人でにぎわっている。
 また、厳寒期には千畳敷駅の陸側の崖に氷壁ができる。寒ければ寒いほど立派なものができるというから、ここだけは寒くなってもいいかな。


鰺ケ沢駅

 線路と国道と海岸線がいっしょに走っているような思いさえする赤石あたり。ここはイカ銀座ともいわれるイカの生干し風景で有名なところ。粗末な作りの売店(魚村らしくていい)がえんえんと建ち並んでイカのカーテンが続く。
 そうこうしているうちに鰺ケ沢駅に近づいてきた。
 津軽藩の交易港として発展した鰺ケ沢町。歴史を物語る史跡も数多いが、若者にはトライアスロンの町、スキー場、ゴルフ場の町として人気。そして、舞の海関の故郷でもある。
 駅舎の後に岩木山の山頂部が見え、大きく迫ってくるような感じになる。ここからは海辺に別れを告げて津軽富士の裾野を周り、その山容を楽しむたびが始まる。


五所川原駅

 越水あたりから津軽平野を横断していく。冬ならば地吹雪銀座ともいうところ。途中、木造駅では縄文の遮光土器シャコちゃんがニッコリ(していると思うが)と来訪者を出迎えてくれる。「そうか、この辺は縄文遺跡の銀座でもあるんだな」などと、思っていると目の前の農道を馬が歩いているのが見えてきた。作業をしているふうでもないし、どう見ても散歩しているようにしか見えない。「あれは、趣味で飼っているんだ」と地元の人。この辺は昔から挽馬競争が盛んで今でも大会が開かれているという。木造町だけでも百頭位の馬が個人の家で飼われているそうで、冬は馬ソリで散歩するという。列車から馬ソリが見えるなんてトクだなぁ。
 列車が進むごとに車窓の岩木山の見える角度が変わって面白い。五所川原駅近くから見える岩木山も姿がいい。窓の外の過ぎ行く光景に見とれているうちに列車は五所川原駅構内に。れれっ、何だかヘンなものが飾られていると思ったら「虫」だった。「虫」は五所川原市民のマスコットともいえるものらしい。そもそもは稲の害虫に悩まされた農民が、木彫の龍の頭に稲わらで編んだ胴体をつけて「虫」を作り、担いで村中を練り歩き五穀豊穣と病害虫、悪疫退散を祈願したのがはじまりという。クライマックスは花火や御神火が夜空を焦がす中、虫を天に送るという壮大な火まつり。市民に愛されている「虫」は駅前の郵便ポストの上にもいた。


弘前駅

 林崎から板柳にかけてはりんご畑の中を列車が走っているという感じ。りんごに手が届きそうなほど近いので何だがうれしくなってしまう。それに、岩木山の全容、すそ野まできれいに見えるから「津軽だなぁ」と思わずにはいられない。板柳駅のそばに真新しいりんご箱が何千箱と積まれているが、これは乾燥のためだとか。りんごの町らしい風景だ。
 「ふじ」りんごのふるさと藤崎あたりでりんご畑に別れを告げる。津軽富士と潮騒の旅も終点に近づいてきた。
 弘前といえば桜とお城。弘前城の城郭は今は公園として整備され、本丸や堀、追手門など、歴史の深さを物語る遺構をま近に見ることができる。ことに本丸広場の天守閣と津軽富士岩木山、桜並木の絵に書いたような三点セットの風景はまさにため息もの。弘前は明治以後も津軽の中心地であったため、旧市立図書館、弘前カトリック教会や日本キリスト教団弘前教会、青森銀行記念館などのようにレトロな建物も多く、歴史的な見どころがいっぱい。地図を片手に街を散策してみたい。
 北国の城下町らしい静かさと情緒に満ちている町だが、この町がひと時、熱気に湧きかえることがある。「ヤーヤードー」という掛け声が夜空に響く弘前ねぷた。青森ではねぶただが、弘前はねぷたという。「ヤーヤードー」のかけ声の中、勇壮華麗な武者絵の扇ねぷたが街を練り歩き、津軽の夏の夜は一気に熱くなる。夏が終わると津軽平野はりんごの季節になる。風物詩ともなっている弘前駅前のりんご専門店。おばちゃんが道行く観光客にりんごをすすめる。「ふじ」や「ジョナゴールト」などおなじみの品種の他、「金星」など、こんなに種類があるのかと思うほどいろいろなりんごが売られている。さすがりんご王国だ。津軽弁に旅情を誘われて、さて、ここからどこに行こうか。



五能線の駅名
あなたはいくつ読めますか?


正解は
みなさんはいくつ読めましたか?「風合瀬 かそせ」は難しいですよね〜。


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