アゲハ蝶
久しぶりに再会したジュリアは、頭の中に思い描いていた人とは別人になっていた。切り揃えられていた赤い髪は艶を持って長く伸びていたし、背もずいぶん伸びていた。まだガキの頃から美人になるだろうとは思っていたが、こんなに短い間にこうなるとは思っていなかった。本人も気づかないうちに男を惹きつけるくらい、ジュリアは変わっていた。
イスラでジュリアと話したとき、少しカマをかけてみた。
「俺たちを追って来たんじゃないだろうな?」
久しぶりに会えて喜んでいることを隠したくて、わざと皮肉っぽく言ってみた。きっと、俺の顔はイヤな感じの笑顔を貼り付けていただろう。
「ち、違うわよ!」
案の定、ジュリアは否定した。想像していたことだった。それでも、ショックを受けていた。そんなことはおかしいと、わかっているのに。
これは、きっと俺がジュリアを「女」として見ているからだ。再会してから今まで、ジュリアの顔をまともに見ていない。記憶とあまりに違っていたジュリアは、俺の頭に新しく加わった女としてインプットされていた。「男」として、顔や身体を必要以上に見つめてしまう。
それでも、ジュリアは俺を「兄」として見ている。そんなことは当然だ。ジュリアはおかしくない。おかしいのは、俺だ。
ジュリアは、妹なのに。
「シゲン兄さん!」
明るい感じの声と赤い髪が思想を打ちきった。焦点を合わせると、ジュリアが少しむくれた顔をしていた。
「もう、何回呼んでも気づかないんだから!」
「悪いな。」
そう言うと、さっきまで怒っていたのにジュリアは笑った。笑うと子供みたいで、怒った顔は知らない女みたいだった。
ホームズが探しているらしく、ジュリアに連れられてホームズの部屋に向かった。日差しのキツイ日で、窓から差し込む日光で身体が焼けるように暑かった。ジュリアも暑いらしく、しょっちゅう髪をかき上げていた。後ろを歩く俺からは、その度にジュリアの項がが見えた。こうして、また俺はジュリアを見ている。白い項、赤い髪に絡まる細い指、華奢な身体。
こんなの、「兄」ではない。いくら血が繋がっていなくても、ジュリアは俺が「兄」だから慕っている。こんなことを考えていたら、俺はジュリアを裏切り続けることになる。似たようなことを前にもやったような気がする。
「私ね。」
突然、ジュリアが話し出した。
「兄さんに会えて、本当に嬉しかったの。グラナダの防衛戦に行ってから兄さんのこと、何にも聞かなくなっちゃって、寂しかったわ。」
「・・・・・・・・・。」
ジュリアの頬に光が当たり、余計にその肌が白く見えた。少しまぶしそうに顔をしかめ、続けた。
「それに、心配だったの。もう、二度と会えなくなるんじゃないかって思って・・・。」
最後の方はほとんど聞こえなかった。聞き返そうとしてもジュリアはうつむいたまま顔を上げないだろうけど。
ここで、子供の頃みたいに抱きしめたら、どうなるだろう。ジュリアの反応が「兄」に対するものであっても、俺が「妹」に接することができないかもしれない。俺は、もうジュリアを「女」として見ているから。
抱きしめるかわりに、強い日差しからジュリアを遠ざけるようにして歩いた。触れることはできないから、少しでも近づくために。
ホームズの部屋の前に来て、ジュリアは立ち止まった。ノックをして、中にいるホームズに用件を告げる。その何でもない動作ですら、目を離せない。
役目を終えたジュリアは立ち去ろうとして歩き出した。だが、俺の横で立ち止まり、あの子供みたいな顔で笑った。
「怖いときは、またそばにいてね。」
虚を突かれた。「兄」でいてくれと言われたようなものだが、俺の奥底の方は喜んでいる。
ジュリアの姿が遠くなっていく。子供の頃、キレイな色のアゲハ蝶を捕まえようとしたことがあるが、あと少しのところで逃げられたのを思い出した。なぜ今更思い出したのかわからないが、ジュリアの姿もその時と同じように小さく、ぼやけていった。
この、くらい感情のせいだ。
シゲン兄さん、悩みまくり。や、でもポルグラのアゲハ蝶は私の中のシゲジュリソングなんで!これ書いてるときアゲハ蝶エンドレスでかけてました。そんな初書きシゲジュリ。シゲン兄さんの一人称です(分かりづらい)。
