ザ・パラレルワールド1〜マイクロトフ×カミュー編〜
一番強く輝く場所
草木も眠る丑三つ時とは言うが、ここ東京ではそんなものは無いに等しい。時計の上では深夜、そこは東京のオフィス街の中で最も暗く、何者も寄せ付けぬ雰囲気を持っていた。昼間の街には姿を現さないが、夜、そこはようやく顔を見せる。休み無く働くオフィスビルの中で異彩を放っていた。
そこの向かいの通りにはモデル事務所に使われているビルが建っていた。大した大きさの建物ではない。しかし、ネームプレートから玄関まで、どこからでも品の良さを感じさせる造りになっている。現在新進気鋭の若手天才デザイナーの趣向を凝らしたビルだ。どこぞの国のハーフである彼は、デザイナーとしてはもちろんその容姿でも有名である。彼の下にいるモデル達に引けを取らない美男子で、何度もモデルとしてスカウトされたという。
しかし、彼はデザイナーとして生きることを選んだ。この日本で自身が選りすぐった若者達を育て上げて、名モデルとして世に送り出す裏方になることを自ら希望した。その決意の影に、とある男声の存在があることはあまり知られていないが。
「フフッ・・・。素晴らしいよ、マイク・・・・・・。」
デザイナーは、天才だった。しかし、天才はとは得てして馬鹿か変態と紙一重なのだ。
「もう・・・っ、やめてくれ、カミュー!!」
彼は、巧みに仮面をかぶり続けていた。仮面を飼い慣らし、己の真実の顔として使役していた。
今夜も、オフィス街に艶やかな笑い声が響く。
「お早うございまーす。」
まだあどけなさの残る少年がドアを開けた。少年と言っても手足はすらりと長く、顔の造作は小綺麗に整っていた。シックなダークブラウンに染まった髪が、少年を大人びて見せた。生粋の日本人なのだが、長身と人より彫りの深い顔立ちのせいでどこか西洋人のような印象を受ける。若干16歳の彼も、世界的に有名なモデルを多数輩出するモデルクラブ「マチルダ」の一員だ。たまたま街をうろついていたオーナーデザイナー・カミューの目にとまり、このモデルクラブに入った。
気だても良く、明るいいい少年だった。だが、彼の先輩達は哀れみの目で彼を見る。別に、暗い過去があるわけでもないし、イジメを受けているわけでもない。最近は数人と共にだがとある雑誌の表紙を飾り、将来を有望視されていたりする。彼は、順風満帆といった感じでモデル業に励んでいた。
多少気になるときもあるが、少年はあまり自分に向けられる視線を気にしなかった。ただ、ある一人の先輩が非常に彼を心配していることだけが、彼の唯一気になるところだった。
「あ、お早うございます、マイクロトフさん。」
「ああ・・・。あっ、今日はまだカミューに会ってないな!?」
「はい。」
「マチルダ」のトップモデルで、世界的にも有名なマイクロトフ。やはり長身で手足が長いが、良く鍛えているらしくしっかりとした筋肉がついている。ハーフやクォーターのモデルが多い中で彼は純粋の日本人であり、髪も目も真っ黒だ。老若男女問わず人気が高く、「マチルダ」での若手からの人望も厚い。
「辛いことがあったら、どんなことでも誰かに言うんだぞ。」
「はぁ・・・。」
正直、少年にとってマイクロトフは少々邪魔だった。カミューに心酔している彼は、ことあるごとにマイクロトフに阻まれ、憧れのカミューと未だにまともな会話もできていない。いろいろと気遣ってくれる優しい人なのだが、マイクロトフの心配のしかたは尋常ではなかった。
(カミューさんがそんな危険人物のはずないのに・・・。)
そう思ってドアを見ると、そこからカミューの麗姿が現れた。美しい顔を笑みの形に崩し、なにやら親しげにマイクロトフと話している。モデルとしての才能を見いだしてくれたカミューを、少年は神にも等しき存在と認識していた。その神とやけに親しげなマイクロトフは、やはり少々邪魔だった。嫉妬を込めた視線で追っていると、カミューはマイクロトフを連れて事務所を出た。
(確か、今入ってきたばっかりだよな?・・・そういえば、最近二人でいなくなること多いな。)
若さ故の好奇心。それを抑えることなど、彼には出来そうになかった。
「・・・なぁ、カミュー。まだこんなことを続けるつもりなのか?」
「もちろんだよ。マイク、君だって事務所に入るとき了承したはずだ。」
ビルを出て、通りを横断する。少し小径に入ったところで、二人は足を止めた。それに合わせて少年も物陰に潜む。ここに来るまで二人は一言も話さなかったが、言葉に表すよりも空気が二人を明確に語っていた。
(やっぱり、カミューさんとマイクロトフさんは・・・。)
事務所に入ったその日から、二人に関する噂は耳にしていた。恋人同士だとか、密室で昼間からはとても言えないようなことをしているとか。それら全てが頭の中で甦った。
動転する少年を余所に、二人はますます怪しい会話を続けていた。もうイヤだの、もっとマイクを見つめたいだの・・・。
(・・・・・・・・・!あっ、中入っちゃう!!)
思考に囚われていると、二人は目の前にある下り階段を下っていった。これから起こることをいろいろ予想して、それでも少年は後を尾けた。
狭くて暗い地下へと続く階段。それは決して長くないが、少年は何時までも下りきれないでいた。目の前にあるドアは鍵がかかっていなく、建付も悪いので中の光や音が漏れてくる。それが、彼をあと2,3段のところで止まらせていた。
(ど、どうしよう・・・!!)
予想は、どうやら9割方当たっているようだった。
「も・・・、やめっ、カミュ・・・ッ」
「まだだよマイク。もっと動いて見せて・・・。」
目の前が真っ白になる体験を、少年は初めてした。あまりにも人は驚くと何も見えなくなるらしい。少年はドアさえも見えなくなり、マイクロトフの上げている声を何をするでもなくただ聞いていた。
(まさか・・・、カミューさんがそんなことするなんてっ!!)
細身で、いかにも繊細そうな身体の、美貌のデザイナー。いくら男でも、いくらソッチ方面の方でも、襲うほうではないとどこかで信じていた。まして、相手は男を具現化したようなマイクロトフだ。力だってカミューよりは数倍ありそうだし、どう考えても逆にしか見えない。
(カミューさんは、カミューさんはそんな人じゃない!!!)
「カミューさん!マイクロトフさん!!」
気づけば、ドアは開かれていた。少年の大声にハッと振り向くカミューとマイクロトフ。確かにマイクロトフは上半身に何も身につけていなかった。周囲には衣服が脱ぎ散らかされており、一見少年の想像通りの光景だった。
しかし、マイクロトフはベッドではなく壁にくくりつけられていたし(これも十分おかしいのだが)、カミューは手に真新しい服を持っていた。カミューはしっかりと服を着込んでいて、周りに怪しい道具類も見あたらない。
「あ・・・れ・・・・・・・・・?」
「やれやれ、いったいどうしたんだ?」
「・・・・・・見つかった、か・・・・・・・・・。」
事実がいまいちよく飲み込めなかった。落胆するマイクロトフ(半裸)とどこか嬉しそうなカミュー。そのうち少年がいることも忘れてカミューは何着もの服をマイクロトフの身体に当てていく。それらはどれも見たことがなかったので、新作だと言うことが分かる。だが、なぜマイクロトフがそれを着ているのか。
「マイク、やっぱり君は一番美しい身体をしているよ・・・。君に合わせた服を作って正解だ。」
「・・・・・・カミュー、人の前だぞ。」
「どうせいずれ似合いもしないのに他のモデル達に着せられて見られるんだ。今見せたって全然構わない。むしろ今見せたいよ。」
マイクロトフは、もはやため息すら出ないらしい。おそらく、少年がここに入る前から、かなり長い間このエゴだらけのショーは行われていたらしい。そして、辛くてマイクロトフは毎回悲鳴を、カミューは悦にいるあまりサディスティックな笑い声を上げている。カミューが新作を出す頃には、毎回。
気が遠くなりかけている少年の前で、天才デザイナーは逞しい世界的モデルに服を着せ続けている。恍惚とした表情のカミューと、対照的に悲痛な目をしたマイクロトフ。
「君がいなきゃ私は服を作れないよ・・・v」
「・・・・・・・・・。」
少年は、ある種神々しさを感じながら部屋を去った。
半泣きになりながらも天才の感性を守るために身体を提供するトップモデル。あれほどにしつこい行為ならば多大な愛がなければ我慢できそうにない。カミューを尊敬してはいるが、あれほど尽くすことは出来ない。いずれ自分にも訪れそうな未来を見て、少年は洒落たビルに背を向けた。マイクロトフは、日ごとにモデルとしての才能を開花させていく少年をカミューから遠ざけようとしていた。マイクロトフの優しい心遣いに、少年は心の中で篤く礼を言った。
今はまだマイクロトフ一人で済んでいるが、これから先自分のようにカミューにスカウトされてこの事務所に入る者がいないようにと、少年は心から祈った。
「幻水でパラレル企画」その1,青赤編でした。・・・赤青の方にも楽しめるかと思いますv(死)なんかモデルさん達の華麗な世界に憧れたはいいですが私には書き切れませんでした。ていうか本当にこんなシステムなのか?「マチルダ」ってホストクラブみたいだし。
「パラレル企画」、あと2個くらいあります・・・。ごめんなさい・・・・・・。
(2001,9,7 山田暁)