天体観測
騎士となった日から、俺たちは一緒だった。所属は違った
が、共に騎士団長になった時は立つ位置が同じになった気
がして俺は子供みたいにはしゃいだ。
けれど、俺は団長職といういものを甘く見過ぎていた。事務
処理に追われ、騎士団の訓練の指揮をとり、会議に招集され
る。目まぐるしい忙しさに、俺は何よりも大事にしていたカミュ
ーをないがしろにしていた。
俺は、カミューからの誘いをすっぽかしてしまった。
カミューは昔から紅茶を愛飲していた。俺は紅茶に特別な
愛着はなかったが、カミューに茶会に誘われるようになってか
ら、俺は茶を飲むようになった。こんなことがなければ、俺は
紅茶を美味いとは思わなかっただろう。茶の美味い不味いよ
りも、俺はカミューと話していることのほうが重要だったが。
カミューの誘いは大体月一回で、それはカミューの自室で
行われることが殆どだった。滅多に訪れる事が出来ない赤
騎士団長室は、俺にとって聖域と同じ、侵しがたい場所だ。
そこで行われるカミューとの二人きりの茶会を、俺はあん
なにも楽しみにしていたのに、それを自らぶち壊すとは!当
然、カミューとは会えない日々が続き、次の茶会の誘いは
来なかった。
本格的に話したのは騎士になってから。それでも、私は
そのずっと前からマイクロトフを気にしていた。バカがつくほ
ど正直で、何に対しても一所懸命で。一つ年下なのに私と
同時期に騎士になり、団長にまでなった。
私はマイクロトフをすぐ好きになった。誠実でまっすぐな所
は見ていて気持ちがいい。それは回りの友人達も同じ事を
言う。それでも、私はもっと違うところに惹かれた。
初めてマイクロトフと茶を飲んだとき、マイクロトフと話こんだ
ことがある。その時、マイクロトフの目は今まで見たことがな
かった。すごく、優しくて、私の言葉を全て受け止め包み込
むような、そんな目だった。こんな目で私を見てくれた人は
ロックアックスにもグラスランドにもいなかった。
強く、まっすぐな性格と、優しい心。そんなところに、惹か
れたんだと思う。
それなのに、マイクロトフは先月来なかった。別に来いと
強制しているわけではないけれど、何故か無性に寂しく、
苦しかった。
子供じみているとわかっていても、マイクロトフを誘わず
に私は一人で茶を飲んだ。
今日も執務室から出ると、体中が悲鳴を上げた。最近、
目立って何もないので、溜めに溜めた書類業務に追われ
ていた。ペンでものを書くことを得手としない俺にとって、
この仕事は一番辛かった。
こんなもの、カミューならばすぐに終わらせてしまうだろう。
手落ちもなく、綺麗に整った字で見やすい書類を作るだろう。
そこまで考えて、俺は今月まだ一回もカミューと話をしてい
ないことに気づいた。俺が執務室に籠もっているあいだ、
カミューは何をやっているのだろう。
会っていないだけに、無駄に想像してしまう。こじつけか
も知れないが、仕事に手が着かない。早く何とかしないと、
いつまでも気まずいままだ。俺は疲れた体に鞭打って、も
う一度ペンを握って紙に向かった。
大分夜も更け、そろそろ寝ようかと用意を始めると、部
屋の外で非常識な音量が響いた。それはちょうど私の
部屋の前で立ち止まり、次に少し間をおいて控えめにノ
ックされた。
「どうぞ。」
「失礼します。夜分遅くに申し訳ございません。」
顔を覗かせたのは今夜の見回り当番の若い赤騎士。
何かの紙切れを右手に持っている。私にそれを渡すと、
そそくさと騎士は仕事に戻った。何だろうと紙を見ると、
見慣れた几帳面な文字が少し歪んで並んでいた。
「明日の夜、城門で待っていてくれ。」
少し焦って書いたのがすぐわかる。それがマイクロトフ
の字だというのも。彼に関することだとすぐわかってしま
う自分に呆れた。
マイクロトフが何をするつもりかわからないが、やはり
会えることが確実になると嬉しかった。今まで、来るか
どうかイマイチ不安だったから。
ところで、明日の夜、私に時間はあるのか?
天気は快晴、温度も高い。城門を守る騎士に少し不
審な目で見られているが、そんなことは気にならない。
あとは、カミューが来るのを待つばかりだ。
呼んだからにはいつまでも待つつもりだ。こんなこと
をしているぐらいならさっさと書類を出せ、と副官殿に怒
鳴られそうだが、カミューに会うため、そんなことは頭の
片隅にもない。
だが、待っている時間というのはやはり寂しい。いつ
来るかわからないというのは、こんなにも不安なものな
のか。俺が、約束をすっぽかした時も、カミューはこん
な気持ちで一人待っていたのか。あの、広い団長室の、
大きな椅子で、一人。それは、今の俺なんかとは比較
にならないぐらい寂しくないか?
「・・・すまない、カミュー。」
俺は、久しぶりにカミューの名を口にした。頭の中で
はうるさいぐらいに呼んでいるのに。
本当にバカなやつだと思った。青騎士団長である男
がこんな時間に仕事をしていないわけがないのに。そ
ういう私も、副官のいない隙に、こうして逃げ出して来
たわけだが。
マイクロトフは、私に謝っていた。呆けた人のように
空を虚ろに見上げて、一言。
「なんで、呼んだんだ?」
「かっ、カミュー!!?」
今まで私の存在に気づいていなかったらしく、マイク
ロトフはひどく焦っていた。それから、落ち着いてさっ
きと同じ一言を。
「すまない。お前の事を考えてやれなかった。」
「・・・・・・・・・。」
黙っていると、マイクロトフも黙った。かわりに、私の
腕を掴んで力一杯引き寄せた。
「な、何するんだっ」
「いつもの茶の礼になればいいと思って・・・。」
「え?」
見上げれば、視界は星で埋まった。青白い光、白
熱灯のような光、赤く暗い光。様々な大きさの、様々
な色の星がロックアックスの空に散り、私の目を広げ
させた。マイクロトフの腕の中で見るそれは、私の中
にいつまでも残った。
「すごいな・・・。」
「だろう?」
しばらく星を眺めていると、マイクロトフが呟いた。
「怒って来てくれないかと思っていた。・・・好きだか
らな、カミュー。」
マイクロトフは、頬を赤くしてまっすぐ私を見ていた。
この目も、星も、私を掴んで離してくれない。でも、こ
の束縛はとても心地よいものだ。私は、いつまでた
ってもこの男に負けてしまう。
「・・・私もだよ、マイクロトフ。ありがとう・・・。」
もう、寂しくないように。
お前らどこのロマンチストだ。(意味不明)
久しぶりに書いた幻水SSがこれかよ・・・。ヘボっぷり
に磨きがかかって目眩がします。ネタは、バンプオブチキン
の「天体観測」より。あれからどうしてこんなのになるんだ
っていう質問は答えられません!(死)でもこの曲は好き
です。
(2001,6,28 山田暁)
