Last

 物見の話では、もう数刻後には同盟軍がルルノイエに入城するとのことだった。城内はもはや
若い寄せ集めの兵しかおらず、腹心の部下はみな死亡、あるいは国外へ逃亡した。
 そのせいで、最後の決戦の前でもクルガンは忙しさに追われていた。信頼に足る人物がいな
いので、部隊編成などを1人でやるしかない。ここ2日ほど、寝た記憶がなかった。
 信頼できる者はいたが、彼はこういった頭を使う仕事は向いていない。彼とは、戦場で共にい
たかった。
 もはや、自分がどんなにあがいても勝ち目はないだろう。今の同盟軍を止める力はこの国には
ない。あんなにも大きく、強かった母国。その堅固なルルノイエの王城は、もろくも崩れようとして
いる。
 「もう、終わりなのか・・・。」
 窓の外で、同盟軍がルルノイエの門を破っていた。



 足音高く階段を上るシードは、兵士にぶつかるのも構わずとある部屋に一直線に歩いていた。
ぶつかった兵士が睨んでみても、シードの目はそんなものをはね返すほど厳しかった。
 まわりに目を向ければ、辺境の村まで行って集めてきた一握りの兵士。剣を握ったことなどあ
るわけもなく、ただ近づく死を呆けた顔で待っているようだった。
 そして、これから向かう部屋にいる彼も。こんな顔をしてただ待っているのだろうか。兵士達と
違って実力もあるし、ただ1人、信頼していたのに。
 「クルガン!」
 扉を開けると銀髪の男がいた。何をするでもなく、ペンを握ったままじっとしていた。色素の薄
い目はうつろに空を見つめ、なにも感情のないもののように見えた。
 「クルガン・・・?何やってるんだ?」
 「・・・シード。」
 顔をのぞき込むと、クルガンの目は生彩を取り戻した。だが、その目には疲労が滲んでいる。
 「どうした?」
 「・・・・・・お前も、なのか?」
 言っている事がわからない、というように首を傾げたクルガンに、シードはますます怒った。



 「死ぬ気なのか、お前も!!」
 激昂したシードの声はかなりうるさい。今はこのあたりも静かだから広範囲にわたって聞こえ
ただろう。だが、そんなのんきなことを言ってられない、とクルガンはシードに向き直った。
 「もう同盟軍は城に入ってんだぞ!そんな時にこんな書類整理なんて・・・。」
 「もう終わった。」
 「何ぃ?」
 「いや、終わる。」
 シードは途端に勢いを失った。わからないことがあるとクルガンに助けを求めるような視線を
送る。口の端を持ち上げて、教えてやった。
 「そのうち、俺たちも兵士も死ぬだろうからな。必要なくなる。」
 「なっ・・・!!」
 今、この言葉が何よりシードを怒らせるのは知っていた。でもあえて言っておかなければ。下ら
ない幻想なら、早めに打ち砕いてしまった方がいい。
 「なんで、死ぬなんて・・・。」
 「この状況で全て明らかだ。同盟軍は皇王を探し、城を制圧するだけになった。」
 「兵士がいるだろ!」
 「寄せ集めがお情け程度にな。」
 シードが黙った。部屋に沈黙が落ちる。
 少したつと、シードはどこかへ行ってしまった。



 こんなに悔しい目にあったのは何年ぶりだろうか。何年ふりかえっても思い出せない。子供の
頃から剣の試合にはたいてい勝っていたし、戦だって手痛い敗北は知らない。
 でも、今のこの状態が「手痛い敗北」なのかとシードは自嘲した。何だかんだ言って自分自身
も死ぬ気でいるらしい。
 だが、それを認めるのがすごく悔しかった。あんなに簡単に死を受け入れるクルガンも嫌だった。
自分がいかに子供じみているか思い知らされているみたいで、悔しい。
 そういえば、子供の頃から悔しい目に遭わせてきたのはクルガンだった気がする。剣の試合
が終わった後、シードの剣さばきを1つ1つ解析せていくクルガンは、どんどん先へ行ってしまう
みたいで、ひどくシードを焦らせた。
 どんなに時がたっても、結局これだけは変わらない。少しだけ心地よくて、やっぱりとても悔し
かった。
 玉座に続く部屋に着いた時、ようやくシードはある気配を察知した。馴染みすぎて、離れるこ
とを忘れた空気のような。
 「・・・・・・よぉ、ようやくお着きか。」
 クルガンの、常に冷たく静かな殺気。



 「気づくのが遅い。」
 「うるせえ。」
 あの熱く激しい闘気がないと、すぐ後を追ってしまうくらいもの足りないものなのか。クルガン
は少し息を切らせていた。
 「なんだ、本番前にバテてちゃすぐ殺されるぞ。」
 「安心しろ。お前より早くは死なん。」
 深呼吸をして息を整えると、シードは既に剣を抜いて構えていた。見慣れた綺麗でしなやか
な構え。ただ正面を見据えて迎え撃つ様は好きだった。あの目が自分に向かっていた頃もあ
ったかと思うと、久々に震えが来た。
 だが、クルガンの好きな構えはすぐ解かれた。
 「なぜ休む。」
 「疲れんだよ。テメーより先に逝っちまいたくねぇもんでな。」
 目を細め、心底楽しそうに笑った。子供の頃からクルガンとの試合に引き分けたり勝ったり
すると、必ずこの顔でまたやろうと誘った。
 こんな昔のことまで鮮明に思い出すなんて、やはり死が近いのだと思った。死が近いのな
ら、やはり良い絵を目に焼き付けておきたい。
 「シード。」
 「あん?」



 シードはクルガンより小さい。一般より小さいわけでは決してないが、クルガンと並ぶとど
うしても身長より小さく見られがちだった。長い腕の中にこうしてすっぽり収まってしまうのも、
原因の一つだった。
 「おいっ、何してやがる!」
 「抱き納めだ。」
 「バカ野郎・・・ッ」
 ここ最近、クルガンにまったく近寄れなくて触れることを忘れていたので、少し嬉しかった。
もちろん、こんなことは言えない。言えば調子に乗るに決まってる。
 広い背中に腕を回して力を込める。このまま消えてしまいたい気分になったが、戦士として
のプライドを傷つけたくなかった。やっぱり、戦って死にたい。それがコイツと一緒なら、今ま
で生きてきた意味がある。
 「・・・来たな。」
 「ああ・・・。」
 体は離れていた。剣を抜き、躊躇うことなく同盟軍を迎えた。



 逝ってしまったか?
 まだ生きているか?
 離れてないか・・・・・・?
                                                           
初クルシー。ルルノイエ陥落直前ですかね。
同盟軍がシルバーウルフのいる部屋に行った後、2人は
手を繋いだっていうのが希望です。(するな)
(2001,6,7 山田暁)