Better



 そろそろ夏服の白いシャツが目立つようになった。
 日中の気温は日を追うごとに上昇し、そろそろ部活も辛くなってくる。同時に、3年生の引退が
近づいてくる。退部者が多いのもこのころだし、上達する者が多くなるのもこの時期だ。毎日新し
いデータがとれる、と部活に出ていると、少しの変化が見られた。
 レギュラーが部室にいる時間が長い気がする。ちょっと理由をつけてはすぐに部室にひっこみ、
長々とこもっている。それも、1度に数人が。
 おかしい。とりあえず今日は1番尻尾を掴みやすそうな海堂を捕まえて話を聞いた。
 「なぁ、部室で何やってた?」
 えっ・・・!?・・・べ、別になにも・・・っ」
 怪しい。明らかに。だが、これ以上追及するのはあまりにも海堂が哀れなのでやめることにした。



 さっきのアレはまずかった。流石に何か企んでいることはバレただろう。なにせ、相手はあの乾
先輩だ。
 とりあえず練習に参加した。不二先輩と菊丸先輩達はまだ部室。怪しまれる前に出てきてほし
い。乾先輩がおっかない顔して部室を見ている。
 ランニングしていると、桃城と越前が近づいてきた。さっきの乾先輩との会話を聞いていたんだ
ろうか、真剣な顔をしていた。
 「なんだよ。」
 「お前・・・、もしかしてバラした?」
 「先輩、やっぱりアンタが無防備だから目つけらえるんスよ。」
 かなり頭にくるセリフだった。思わず手を出しそうになったが、ますます怪しまれることになるの
でやめておいた。
 「ただ話しただけだ。文句あっか。」
 「その話の内容がなー・・・。」
 「先輩ヘンなトコ素直ですからねー。」
 「んだ、コラ・・・。」
 桃城と越前の大げさなため息を聞いてるとイライラする。さっさと離れようと走るスピードを上げた。
 ・・・なんだか、左手の指が痛む。



 「・・・つーわけで、どうやら海堂の奴バラしたっぽいんスよー。」
 ハア、と桃先輩がため息をついた。
 「やっぱ海堂にゃ荷が重すぎたかな?隠し事は。」
 「乾が相手じゃ余計にね。」
 桃先輩の報告に、今回の主犯格、不二先輩と菊丸先輩が深刻そうに頷いた。
 入部して初めてのレギュラーの誕生日を迎えた時は驚いた。みんな自分のことのように大騒ぎし
て相手を喜ばせようと必死だった。まだ、あまりレギュラーに馴染んでいなかったからあまり真剣に
なれなかった。
 2番目の海堂先輩の時も、ランキング戦のことがあったからプライドの高い先輩に避けられてしま
った。
 だから、今回は、もういい加減レギュラーメンバーの濃いキャラにも慣れてきたし、この人達とこう
やって騒ぐのは結構楽しい。
 「とりあえう、海堂をフォローしなきゃねー。」
 「バレたらあんまり面白くないしね。」
 「やっぱドッキリっぽいのがいいッスよねー!」
 盛り上がる先輩達。でも、オレは多分1番燃えてる。
 「絶ッ対、驚かしてやりましょーね!」
 いきなり大声だしたからちょっとビビったみたいだけど、わかってくれたはず。右手バンソーコだら
けにしてまで叫んでるんだし。



 まさかおチビがあんなに燃えてるなんて思わなかったなー。ま、盛り上がってるんだから大歓迎
なんだけど。
 でも、ちょっとバレそうなのはヤバいかなー?あとたった1日頑張ればいいんだけど。
 「ねー、不二。」
 「なに?」
 「いよいよ明日だね、乾の誕生日!」
 「そうだね。」
 なんて和やかな会話をしていて、重大なことに改めて気が付いた。誕生日は明日だけど、プレ
ゼントはもうあるよね!?
 「不二っ!」
 「なに?」
 「大石んトコ行って来る!!」
 大石達なら、大丈夫だと思うけど。やっぱり不安だ!オレが指を穴だらけにした努力がムダに
なっちゃうよ。



 大石、河村と練習後の整理運動をしていると、前方からものすごい勢いで菊丸が走ってきた。
 「大石ー!手塚にタカさんもー!!ねぇ、プレゼントできてるー!?」
 「英二っ!」
 「あ・・・。」
 まわりの部員が不審そうにこちらを見た。乾がいなくて良かった。
 大石に注意されて小声になった菊丸が言った。
 「プレゼント、出来てるよね。」
 明日に迫った乾の誕生日に不安そうな菊丸に、大石と河村が自慢げに答えた。
 「もちろん!」
 菊丸の表情が和らいだ。俺は、ラケットの傍に置いてある袋を取り出した。
 「コレが完成品だが・・・。」
 「おおっ、スゲー!!」
 白い布の塊に、不格好な縫い目。綺麗なものももちろんあるが、俺は決して上手いとは
いえないほうだった。
 「このあたりなんてタカさんとか大石じゃない?手塚も上手そうだよね。」
 「そこは俺。手塚はね・・・。」
 「言うな、河村!」
 上手いと思われているのに本当のことを知られたら少し・・・いや、かなり恥ずかしい。菊丸
の疑惑の目が痛かった。
 「ふーん、まあいいや。・・・あ、乾だ。」
 データを書き記したノートを持って、真っ直ぐこちらに向かってくる。今まで話題にしていた人
物なので、慌てて塊を隠した。
 「ああ、英二。先生と相談した結果、ちょっとこのメニューやってもらうことになったから。・・・ど
うかしたか?」
「「「「いや、別に何も。」」」」
 4人でセリフがかぶったのは、かなりまずい気がする。乾の顔が一気に険しくなる。追及され
たら、諦めるしかないだろう。乾に口で敵う奴はここにはいない。多分、絶対。
 そんな俺の懸念をよそに、乾はあっさり言った。
 「今日はもう終わりだってさ、手塚。」
 「あ、ああ・・・。」
 部長の顔になって、部員を集めた。日曜の部活について話すために。



 朝、起きたら「おめでとう。もう15歳なのね。」と母に言われた。
 6月3日。誕生日だということをようやく思い出した。寝起きは頭が働かなくていけない。
 学校に着いてからも、クラスメイトや担任などにおめでとうを言われた。いろんな人が俺の誕
生日を知っていてちょっと怖い。でも、祝われるとやはり嬉しかった。
 そろそろ部室に行こうかと歩いていると、桃と海堂が一緒に走っていた。あの二人が一緒に
いるなんてかなり珍しい。そう思って声をかけると、バケモノでも出たような顔をして、
「「あっち行ってろ!!」」
 と言われた。
 あんまりな言葉に呆然としていると、海堂が慌ててフォローした。
 「・・・あ、不二先輩があっちの木の下で待ってます。」
 「・・・そうか。」
 見ると、確かに不二がいた。こちらを見て笑っているということは、さっきのやりとりは見られ
たんだろう・・・。あそこへ行くのが嫌になった。
 重い足取りで不二の所に行くと、案の定笑われた。
 「おはよう、乾。ショックだったでしょ?」
 「多少。」
 ニコニコ笑う不二は何でもお見通しみたいで、少し嫌いになった。だが、そんなこと言ったり
したらますますおもしろがられるに決まってる。
 でも、あんなのとは比べものにならないくらいのことを言われるなんて、思いもしなかった。
 「乾・・・。僕がゲイだって、知ってた?」
 「・・・・・・・・・は!?」
 「乾なんか背も高いし、頼りになるし。結構、好みだな。」
 「な・・・、に、を・・・。」
 目をうっすら開けて微笑む不二は、俺の体にすり寄って腕を撫でていた。ショックを受けて
石になった俺は身動きがとれず、不二の好きにされていた。言っておくが、俺にソノ気はな
い!!!断じてない!!!!
 悲惨な状況に泣きたくなったとき、いきなり目の前で色とりどりの紙が舞った。遅れて、音
がついてきた。
 「誕生日おめでとう!!!」
 見ると、レギュラーの8人−−−不二も、だ−−−クラッカーを手にしていた。不二のクラッ
カーは至近距離だったために、俺に中身が全部かかった。
 「お前ら・・・。」
 「やっぱいきなりの方がビビるでしょ?」
 1番はしゃいでいるのが英二。桃と嬉しそうに手をたたいていた。
 「やっぱり祝ってもらうのは嬉しいだろ、乾?」
 なあ、と海堂に同意を求めるのは大石。海堂は照れているのかそっぽを向いていた。二人
とも、既に俺を含めたメンバーに祝われていた。確かに、一気に8人に祝われるのはちょっと
くるものがある。
 「おめでとうございます、乾先輩。」
 「丁寧だな、越前。」
 桃にからかわれながらも、越前は勝ち誇ったような顔をしていた。
 越前以外にもそれぞれの言葉を受けて、最後に手塚が何か袋を持って前に出た。
 「これはレギュラー全員からだ。受け取ってくれ、乾。」
 「大変だっよね、コレ。」
 河村が苦笑しているのが少し気になったが、嬉しいので早速開けてみた。
 少し大振りな袋からは、これまた大振りな白い布にでできた枕が出てきた。枕にはメッセ
ージが書かれていて、『頑張ってデータ取り続けて下さい』とか『何食えばそんなデカくなれ
るんだ?』などなかなか失礼なものもあったが、1番スペースを取っていたのは『おめでとう』
の文字だった。
 「これ、くれるのか?」
 「もちろんだ。全員で縫ったんだが、汚いところがあるかもしれん。」
 手塚の言うとおり、丁寧な縫い目もあれば少々雑な縫い目もあり、それはメンバーの手
をよく見れば誰のものか大体わかった。でも、それでも、
 「ありがとう。」
 こう言うしかできなかった。
                                                        終

 乾さん誕生日おめでとうSS。たまにはカップリングにこだわらずに書いてみたかったので、
こういう形になりました。「乾先輩誕生日企画0603」に捧げさせて頂いてます。無理矢理オ
ールキャラ出したっぽくなったなぁ・・・。(遠い目)
(2001,6,4 山田暁)