不自然な関係



 別に、これは義務でも何でもない。いつ会うとかは一つも決めないし、
ある日いきなり連絡が途切れたり、毎日同じ時間になんてこともある。
ずいぶん、自分勝手だ。俺には何一つ決めさせてくれない。
 それでも、俺は行ってしまう。このことを誰にも言わず、いつもたった一
人で行く。人を連れて行ってもいいのかも知れない、あの人はおかしいから。
 ただの、部活の先輩に抱かれに行く。
 今日まで、「呼び出し」はまったくなかった。3ヶ月は会っていないだろう。
呼び出すのはいつも乾先輩。現役時代はよく俺のトレーニングメニューを
作ってくれたりして面倒を見てくれた。こんなことをするようになったのは、
先輩が引退してからだ。ちょっと他の奴らよりは仲が良かったかも知れな
いけど、ここまでやるとは思わなかった。それでも、俺は嫌がったのは最
初だけだった。
 知らないうちに、電話の前にいることが多くなった。家族の誰にも電話
を取られたくないから。ベルが鳴って、電話に出て。それが乾先輩なら返
事をひとつしてしまえば、翌日の俺の行動は決まる。適当な服を着て、
乾先輩の家に行くだけ。
 今日も、俺はマンションの前にいた。無機質な白い壁の建物の最上階
にほど近い部屋。そこまでエレベーターで登り、部屋の前でインターホン
を鳴らせば、長身の男が出てくる。
 「いらっしゃい、海堂。早かったね。」
 早く来るのはほかにすることがないから。アンタに抱かれる以外、何
も。これは意味のない行為だし、俺にとって残るものは体のべとついた
感触だけだ。気持ちが悪い。先輩はゴムをつけないことが多いから、体
中精液まみれになる。中出しなんてされれば、次の日は腹を下すし。
 それでも、俺は。
 「お邪魔します。」
 いつものように靴を揃え、連れられるままに先輩の部屋に行ってしまう。
理由もなく。



 相変わらず広いベッドと本とノートのたくさん載った机があるだけで、
何もない部屋だった。そのせいで部屋は広く、風がよく通った。この部屋
先輩みたいだ。なにもない。
 「座ってて。」
 とくに強制するような言い方じゃないのに、俺はそれに従った。俺が
座ると、先輩はどこかへ行ってしまった。先輩を追いかけようにも、俺
はこの部屋以外この家を良く知らない。風呂を借りるときもあるが、た
いていは先輩に付き添われてだから良く覚えていない。
 乾先輩が戻ってきた。手には蜂蜜でも入っていそうな瓶。中身はド
ロドロした液体みたいだ。ガキみたいに背の高い人を見上げる俺に、
先輩の顔が近づいてきた。キスされたと気づいたときには、もう背中
はフローリングに接していた。そのままゆっくり舌が入ってきて、歯を
一本一本数えるように舐める。これだけは、いつも優しかった。
 先輩の大きな特徴であるメガネが顔に当たって痛いけど、先輩は
メガネを決して取らない。痛がっていることを知っていても、決して。
 「ん・・・。」
 たっぷりと糸を引いて口が離れた。先輩の大きい手が唾液に濡れ
た唇を拭う。その手が、素早く伸びて俺のシャツを引きちぎった。あ
っという間に全裸にされ、服は布きれになっていた。
 ここで、あの瓶の栓が開けられた。中から独特の色をした液体が
覗ける。毒々しいピンクに先輩は眉をひそめ、それから指を勢いよ
く中に突っ込んだ。指に大量の液体を纏わせ、俺の体を撫でた。俺
の目を隠すようにキスをするうち、だんだん体にひんやりしたものが
ついてきた。それはさっきの液体で、ピンク色が首筋から股間まで
至る所についた。
 「何スか、これ。」
 「気持ちヨくなれるおくすり。」
 ガキみたいに楽しそうな先輩は、俺の両手と両足を布きれにな
ったシャツで結びつけた。
 「しっかり見ててやるよ。」
 背筋が凍る笑顔で。



 足を閉じようにも、手がちぎれそうになるからできない。手で隠そ
うにも足が邪魔で動けない。だんだん熱を帯びる体はゆっくりとしか
動けず、かえって熱を煽った。「気持ちヨくなれるおくすり」は悔しい
けど確実に効いていた。
 「あ・・・あ、見るなッ・・・」
 さっきから、乾先輩は俺を「見て」いた。表情はよく見えないけど、
きっと笑っている。俺はクスリのせいで全身赤いし、股間のアレは
勃起して先走りを流している。決定的な刺激がなくて、イケないで
いる。
 「ツラそうだね、海堂。」
 「・・・ぅるせッえ・・・っ」
 憎まれ口を叩けばますます先輩が笑う。笑うと、俺にとってはよ
くない事ばかり起こる。
 「こうしたら、もっと楽しいかも。」
 「あああっ、やめ・・・、とって・・・ッ」
 布を細くちぎって膨れたアレに結びつけた。その刺激と先輩の息
で更に液が流れた。ドクドクと脈打ち、後ろも物欲しげにヒクついて
いる。それを舐めるような目で見られ、恥ずかしくて気が狂いそうだ
った。
 「まさかこんなに効くとは思わなかったな。スゴイことになってるよ、
海堂のココ。」
 「ッあ、やぁ、め・・・っああっ」
 何気なく人差し指を入れられ、わざと息がかかるように喋られる
と、前も後ろも汚れ、普段より高い変な声がでる。骨張った大きな手
が胸を撫で、唇が首筋をなぞる。中にはほとんどの指が入り、先
輩とは別の生き物みたいに動く。
 「あっ、ん、ふぁっあぁ、あッ」
 「海堂、お前今すごいヤラしいよ。わかる?俺の指抜けないくら
い締め付けてるの。」
 「し、らな・・・っ、ぃやぁッ、あうっ」
 「強がるなよ。イカせてほしくて震えてる。」
 体の上で遊んでいた手でアレを弾くと、更に股が濡れた。それで
も紐のせいでイケない。苦しくて涙が出た。
 「・・・そろそろか?」
 手足とアレを縛っていた。布を取ると、生暖かい空間で俺はイッた。
先輩が喉を鳴らして飲み込むと、余計に後ろがヒクついた。あさまし
くてみっともなくて、恥ずかしい。でも、何よりも正直な後ろに、俺は
従うしかなかった。先輩のジッパーをおろし、両手で先輩のに触れた。
触らなくても十分な大きさになっていたが。
 「焦るなよ。ホントヤラしいね、お前。」
 軽蔑されても、何とも思わなかった。今だけ。



 やけに音が響く。相変わらず先輩は見ているだけなのに、俺は
息を荒くしていた。左手はぎこちなく上下し、右手は後ろを慰めて
いた。慣れていないこの行為はとても虚しいけど、こうする以外何
もできなかった。しなければ、先輩がくれないから。
 「んくっ・・・、ハァッああっ、も、ダ・・・メッ・・・」
 「イケよ、海堂。そしたら入れてやる。」
 さっきから聞かされた言葉。心底軽蔑したような笑顔。自分より
下等なものへ向けられる目。今までのことは全て俺が悪いんだとで
もいうような冷たい態度。それなのに、俺の惨めな姿を見て楽しんで
いる。
 この人は何がしたいんだろう。不定期に俺を呼びつけて変態的な
行為を強いる。そして、本当に楽しい時は子供みたいに笑うんだ。
とても、冷たくて何も感じさせない笑顔だけど。
 後で思い出すと寒気がする。先輩の笑顔も、俺が先輩に抱かれた
ことも。
 「・・・あああぁぁっっ」
 盛大に体と床を汚すと、乱暴に床に押しつけられた。後ろが焼ける
ように熱くなり、その後先輩の重量を感じた。そして、強く強く打ち付け
られる。
 「アッ、あんっ、ああっ、せん、ぱ、い・・・っ」
 「!」
 最中に先輩を呼んだのは初めてだった。あれだけ激しかった動きも
止まるくらい、先輩も驚いている。すぐに行為は再開したけど、俺は
譫言みたいに先輩、と呼び続けた。最後は悲鳴じみた声になったけど、
呼び続けた。
 先輩。



 もう、何度目かなんて数える気もしない。ただ、人形みたいにがくが
くと揺さぶられるだけで、失神したかも知れない。
 俺も乾先輩も汚れていた。汗とお互いの精液がぐちゃぐちゃに混じり
合って、妙に滑った。それでも、犬か何かみたいに先輩は腰を動かし
ていた。それに合わせて、俺もただ腰を振った。
 今日は、久しぶりだから俺も溜まっていたのかも知れない。狂人み
たいに声を上げ続け、不自然なはずのこのセックスも当たり前に受け
入れている。おかしいとはわかっていても、ずっと、先輩を受け入れて
いた。
 俺は、また「先輩」と呼んだ。不思議と意識はハッキリしていたから
覚えている。不意に、体が離れそうになったから腕を伸ばした。離れ
たらヨくなれないから。
 その手は押し退けられた。冷たい床にはりつけられて、必要以上に
乱暴に突かれた。突き放すように。でも、それが逆に更にヨくなる体に
うんざりした。離れろと言われているのに、みっともなくしがみついてヨ
うなろうとする。
 目の前の先輩がぼやけていく。体は嬉しくてたくさん涙に似たものを
流すけど、目は悲しくてホンモノの涙を流した。
 離れたくない。俺は先輩に見下されているけど、それでも一緒にいた
いと思った。今日はおかしいのかもしれない。
 離れたくない。たとえ不自然な関係でも。
                                  

いいように弄ばれちゃってる海堂君。乾先輩ベタ惚れは良く見たけど、
海堂ベタ惚れはあんま見たこと無い(探せばあるでしょうが)。
この話、時期的には海堂中3,乾高1の初夏あたりです。梅雨入り前
くらいの(細かい)。
一応、海堂の一人称で進んでますので・・・。


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