オオカミ



 真夏であることは夜も変わらない。それを象徴するかのように城内はうだっていた。あまりに暑いと陽炎が立つが、フリックのまわりはそればかりが目立ち、景色も定かではない。いつもは上着を羽織っているフリックも、ノースウィンドの短い強烈な夏に負け、黄色のノースリーブに細身のジーンズという格好で過ごしていた。暗い空中庭園に、フリックは一人佇んでいた。
 熱気に吹かれて花の香りが襲った。脳の芯まで染みるような強い香りに目眩すらした。よくこんな所で茶が飲めるものだとフリックは仲間である「貴族」の彼らを尊敬した。それにしても暑い。花の香りが余計暑さに拍車をかけ、じりじりとフリックの身体を灼いた。
 「これじゃ余計眠れないな。」
 フリックは、最初は涼みに出てきたはずだった。それなのに、こんなに暑くてはサギじゃないか、とフリックは手近な花を手折った。鮮やかなブルーの花は短い夏を精一杯生きていた。周りが陽炎でぼやけているのに、この花だけくっきりと目に飛び込んできた。
 この小さな花は今まで何人の人間に愛でられたのか。精一杯生きようとしている健気な花を、フリックは考えなしに手折ってしまった。少し恥ずかしくなって、フリックは花を土の上に置いた。 そんなフリックの心情に反し、小さな花を見つめる美青年というのはなかなか美しく、幻想的だった。そんな風に見られていることに、フリックはいつだって気づいていない。
 「くぅぅ・・・、一週間も見てねぇと、あんな普通のカッコでもクルぜ!」
 邪な目でフリックを見つめるのは、花などここに来るまでの間に何本も薙ぎ倒してきたビクトール。同盟軍リーダーの少年の趣味で一週間の旅につき合わされていて、今まで城にはいなかった。ビクトールにとってフリックのいない今までの一週間というのは地獄そのものであった。彼は、飢えていた。
 フリックがテーブルに近寄った。ビクトールはテーブルの正面に位置する茂みにいる。つまり、ここにいればフリックの姿がよく見える。フリックが腕を伸ばして椅子の背に手をかけると。
 「フリック!」
 「うわ!!」
 後ろから丸太が飛んできたようだったとフリックは感じた。それから、夏でも冬でも高い体温を。
 「ビ・・・ビクトール!?帰ってたのか?」
 「おう。」
 良く懐いた獣のように身体全体を密着させるビクトールの、ある異変をフリックは的確に察知した。「良く懐いた発情期の獣」になっていた。
 それを知った途端、何もかも熱くなった。ビクトールの吐息、自分の肌、全て。風が吹いたときの目眩が再びやって来て、フリックはビクトールにしがみついた。
 「・・・いいな?」
 頷くしかできない自分が少し嫌になった。



 てっきり、どこか物陰に行くのだと思っていた。が、「発情したケモノ」はそんなことは気にしない。動転するフリックを余所に、ビクトールはどんどん服を取り払っていく。
 「ちょ・・・、こんなとこ・・・っ」
 うるさいとばかりにフリックの口を塞ぐ。呼吸を奪い、細い身体をテーブルの上に押し倒す。白い肌が闇夜に映え、そこに次々と紅い印が散っていった。首筋から鎖骨、胸元に。
 大きい手は体中を這い回り、時々フリックを仰け反らせた。唇で胸の飾りを舐り、甲高い声を出させた。
 「あっ、ああッ、ん、や、ビク・・・。」
 「何だ?」
 「お前、も・・・。」
 熱に浮かされたようなフリックがゆっくりとした動きでビクトールの服に触れた。そして、しばらくするとビクトールの筋骨隆々とした逞しい上半身が露わになった。フリックは起きあがり、ビクトールの身体の至る所に口づける。先ほどビクトールがしたのと同じ所に。
 「おい、フリック・・・。」
 「・・・久しぶりだし、な・・・。」
 何かを吹っ飛ばされた。ビクトールは愛撫を繰り返すフリックの腰を浮かせ、双丘を割って蕾に触れた。指に絡まっている液を溶かすようにして、ゆっくりと中に進入していく。
 「んあっ、ああ、ぅくっ、ひゃ、あ、あっ」
 「いいか?」
 潤んだ目で見つめ返すフリックを再び押し倒し、下衣を緩めてフリックの片足を持ち上げた。目の前に溶けた蕾が現れ、ビクトールがそれに押しつけられた。
 「覚悟しろよ。」
 そう言われ、フリックは覚悟する間のなく身体の間を凝視することになった。初めてではないのに何故か毎回構えてしまう。この大きさに慣れろという方が無理なのだが。
 少しずつ、ビクトールが入ってくる。液が塗り込められた蕾は濡れ音を絶やさず、フリックは耳を塞ぎたくなったが、それ以上に凄まじい痛みがきた。徐々に入り込んでくる質量を、後からくる快感と共に受け入れた。
 「あっ、あ・・・、ビク、トー・・・ッ」
 「悪ィな。」
 もの凄い圧迫感とわずかな快感がフリックの下肢を支配した。ビクトールやその手が身体に触れ、圧迫感が薄れていった。
 「あぁっ、あっ、イ、ビクトール・・・、ああぁぁっ」
 「フリック・・・ッ」
 絶頂はすぐに来た。でもそれだけで衝動は収まらず、何度となく二人の体液が周囲に飛び散ることになった。



 翌日、リーダーの少年、アースに呼ばれてフリックは彼の部屋に向かった。そこには同盟軍の優秀な軍師達もいて、フリックの背筋を凍らせた。
 「で、今日フリックさんを呼んだ理由は・・・。・・・シュウさん、お願いします。」
 アースが目配せをした。心なしか部屋にいる者達の頬が少し赤い。あのシュウでさえも、「理由」を言うのに少し戸惑った。他の者も、窓の外を見たり床を見つめたままだ。
 「なぁ、何なんだ、一体?」
 痺れを切らしてフリックが言うと、シュウが咳払いした。まじめな顔をしてフリックに向き直り、
 「今日から一週間、お前はアース殿のお供をしろ。」
 「ああ、べつにいいぜ。」でも何でそんな急に・・・。」
 「お前達がいかんのだ。」
 鬼のような形相のシュウに言われ、フリックは身をすくめた。何故こんなに怒られるのかフリックには見当がつかなかった。「お前達」と複数形を使われるのにも。
 「貴様ら、昨夜何時までしていた?」
 「は?」
 「空中庭園でいつまでヤったんだと聞いているんだ!!答えんか、フリック!!!」
 「ええ!?そんな・・・。」
 シュウがどこかキレたようにフリックに問いつめた。他の者に助けを求めても皆一様にあさっての方向を向いている。その間もシュウは顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らしている。
 「貴様らが人目も憚らずヤりたい放題ヤってくれたお陰で、俺たちはもの凄い数の苦情を処理しているんだ!その内容はぜーんぶ『ビクトールさんとフリックさんがうるさくて眠れません』だ『気になって眠れません』だの、そんなのばっかりだ!!話を聞けば昨夜貴様ら空中庭園でヤりたい放題ヤってたらしいな。知ってるのか?あそこは城中でホールの次に音が良く響き渡る所なんだよ!!」
 「シュウさんストップ!」
 シュウを昏倒させて、アースが後を継いだ。
 「城のみんなから苦情が来てて、もう手に負えないんですよ。で、どうせならしばらく二人を引き離しちゃおうというわけで、こうなりました。」
 「・・・今度は俺が行くんだな?」
 「そういうことです。」
 ニッコリ笑ったアースとは対照的に、フリックは奈落の底にたたき落とされたような顔になった。城中から苦情が殺到したということは、城中に自分たちの関係が知れ渡ってしまったということで。
 そして、一週間後には「発情期のケモノ」状態のビクトールにまた同じ目に遭わされるのだろうと思うと、フリックは腰が更に重くなった気がした。

裏なビクフリ。ちょっと今回はエロ短めv手抜きとかつっこむのなしで。何よりも楽しかったのはラストのシュウ。セリフ考えんのが楽しかったですvて、メインじゃないですが。
〔2001,8,8 山田暁〕