Dance Dance Dance
オデッサは美人だった。目鼻がバランスよく整っていて、唇は紅を
ささなくても綺麗だった。美人だったししっかりしていて、そのうえ誰
にでも優しいから当然男達は勘違いして一方的に惚れていた。「オデ
ッサの恋人」であるフリックは男に言い寄られるオデッサを見るのが
嫌いだった。「恋人」なら当たり前だが、その男達に「嫉妬」していた。
胸の辺りがもやもやして、言いようのない焦燥感かられる。これを「嫉
妬」と呼ぶなら間違いなくそうだろう。
なら、今の状況も「嫉妬している」のだろうか?
目の前には熊みたいにデカイ図体をしたビクトール。それに、何か
盛んに話しかける異国の女達。なんでも旅をしながら踊りを学んで
いて、女ばかりで旅をしているという事だった。仲間の一人が暴漢に
襲われそうになったところをビクトールが助けてやったという、ありが
ちと言えばありがちな話だった。いたく感謝した女達は一座総出で
礼を言いに宿泊している宿に来た。そういうことだった。
宿代を肩代わりしてくれたりこれからの仕事を斡旋してくれたの
とても有り難いのだが。ただ、その仕事がこれからの彼女たちの用
人棒なのが気にくわない。しかも女達は勝手に踊り始めた。狭い客
室に異国の楽器が鳴り響き、あまり品の良いとは言えない踊りが
披露された。礼を言いに来たのか、ただ騒ぎに来たのかわからな
い。
フリックがくさっていると、女達が寄ってきた。今回のことに直接
関与していないフリックは最初こそあまり構われなかったが、元来
女受けはいいフリック、黙っていても女を惹きつけた。何かしきりに
女が話しかけてくるが、フリックには聞こえなかった。少し離れた所
の、親密そうな会話しか聞こうとしなかった。トラン解放軍時代から
どこか胡散臭くていい加減で。たとえ女であっても絶対気にしない
だろうと思う奴なのに。
目が離せなくて困る。
女達が帰ったことにも、フリックはしばらく気が付かなかった。い
つまでも空を睨みながらゴブレットを握るフリックからは、殺気が放
たれていたようにも見える。
「いつまで宴会気分でいるんだ。」
「・・・・・・。」
ビクトールに声をかけられたあたりから、フリックの意識が戻った。
目の前に浅黒い肌のビクトールがいる。黒い目を見開いて子供み
たいにフリックを見ている。酒に酔った感じはしない。臭いはするが、
後片づけをしたくらいなら異常はないだろう。なぜか安心して、フリ
ックは笑った。
「なーにニヤけてやがる。そんなにあのコが可愛かったのか。」
「違うよ。」
笑いが止まった。口元だけの作り物の笑顔だったが、それさえ
も消えると鋭い眼が現れた。ビクトールに、それは向けられていた。
何も知らないビクトール。女の事などとうの昔にどうでもよくなっ
ていたのを、知らないフリをするつもりか。こんなにも、俺は怒って
いるのに。
せめて、女の身体を持っていればこんな風に旅をしなかっただ
ろうか。女達も自分の存在を察知して宿に押し掛けたりしなかっ
ただろうか。
すべてが憎らしく思えた。自分の事を見ないビクトールなど、消
してしまいたいと思うくらいに。
「おい!何やってんだお前!?」
気が付けばフリックの右手は血にまみれていた。付近には赤味
がかったガラスが散り、少し手にも刺さっていた。それでも痛みは
なく、ぽたぽた滴る真っ赤な血を、フリックはただ見つめていた。
ビクトールが駆け寄ってきた。少し怒ったような顔をして、救急
用具を持っている。何か喚いている。それは、紛れもなくフリック
だけに向けられたもの。
「・・・何笑ってやがる。」
さっきも同じようなことを聞いた気がするが、明らかにさっきとは
ニュアンスが違う。怒り、諭すような口調。
「俺は、女と居て楽しそうだったか?」
「あ?んなことより、手見せろ。」
「嫌だ。」
「ああ?」
ここが一階でよかった。暑くて窓を開けてあったので、フリック
は窓に駆け寄って飛び降りた。ビクトールは虚を突かれ、フリッ
クの脱走を許した。手を付いた縁には、赤いフリックの血。
「くそっ」
この右手はお前だよ、ビクトール。ずっと俺についている。
今頃、ビクトールは町中駆け回って探しているだろうか。そう
考えれば、右手も痛くなくなった。
街の出口に近い森で、フリックはうずくまっていた。突然右手
が痛みだし、走れなくなった。手当をしたかったが、ビクトールに
は会いたくなかった。きっと、自分の気持ちを知っている。多分、
フリック以上に。何度も目を見られた。あんなに隠したのに。
「くそ・・・っ、痛ぇ。」
右手を見れば、血が固まってこびりつき、ガラスが刺さった所
は変な色になって腫れている。相変わらず熱を持っていて、冷
や汗が流れた。
ひどくみっともない。変形した右手も、子供じみた自分も。
いっそ、意識が飛べばいい。そのまま誰かに見つけられて、
俺はビクトールに会うだろう。ビクトールの横にはあの女がいる。
そうしたら、俺の居場所がなくなるけど。
急に心臓が早く鳴りだした。頭の中はビクトールと女しかいな
い。この右手がこの傷のせいで腐り落ちて、右手がどこかに埋
められれば、その土が右手の居場所になる。そして、無くなった
右手は、一生戻らない。義手などまやかしだ。一生、ビクトール
は女のものになるだろう。吐き気がする。女が笑う。俺は・・・。
「嫌・・・だ!!」
久しぶりに声を出した気がする。それから、フリックは目の前
が沈んでいくのを感じた。色が死に、白っぽくなっていく。右手
の感覚がなくなっていく。それでも、フリックは気づいた。
「嫉妬」していると。
「・・・おい!いい加減目ェ覚ませ!フリック!!」
左頬がはたかれた。驚いて目を開けると目の前にビクトール
の顔のアップ。口では荒々しく言っているが、目は心配している
ことを雄弁に語っている。
「ビクトール。」
「何呆けた声出してやがる!さっさと帰るぞ。」
ビクトールの腕に引かれてフリックは赤子のように立ち上がっ
た。まだ自分の状況がよくわからない。確か、ここで座り込んで
いて・・・。
「・・・ったく、人が心配してんのに、ぐっすり寝てやがるとはな!」
「・・・・・・俺、寝てたのか?」
「まだ寝ぼけてんのか?自分のした事も覚えてないのか。」
ビクトールに引っ張られて歩くうちに、フリックはようやく一つの
結論に達した。もう、隠しても無駄だ。
「ビクトール。」
「あん?」
ちょっと不機嫌な声。
「好きだよ。」
ビクトールが振り返った。目をいっぱいに見開いてフリックを
見ている。これだけでも、右手を傷つけた価値はあっただろう。
ビクトールもフリックも、痛みを感じたが。ただ、今ビクトールに
はフリックしか映っていない。
「・・・・・・何?」
「好きだって言ってるんだ。わからないのか?」
何で、こんなに余裕があるんだろう。さっきまであんなに必死
に痛みを堪えていたのに。
「好きだよ、ビクトール。」
「・・・・・・・・・フリック。」
これで軽蔑されても構わない。フリックから右手は一生消え
失せ、死ぬまで「嫉妬」と言う激痛に苦しむのだろうけど。
完全に歩みを止めたビクトールに、フリックはゆっくり近づいた。
踊り子がしたように太い首に腕を回し、顔を近づけた。抜けきら
ない酒の臭いがしたが、どうでもよかった。
息が止まるまでキスをしたい。足が疲れて棒になっても一緒
に歩きたい。たとえ、横に誰かが並んでも、その黒い目はこっち
を向かせたい。俺は、滑稽な踊りしか踊れないだろうけど。
「フリック。」
耳に心地よく響く声。それに名前を呼ばれるだけで、俺は安ら
げるのだと知った。
3333Hitが申告なしだったので「じゃぱにぃずおんりぃ」のかめ
吉さんに押しつけ貰って頂いたリク権で書いたものです。お題は
「やきもちやくフリックと、最後は甘甘なビクフリ」。・・・クリアして
ますか、かめ吉さん!?やきもちは焼きまくったフリックですが、
甘くはない気が・・・!甘いっつーか寒い気が!!!(死)
しかもリク受けてから大分経ってこの出来・・・。笑ってやって下さい。
返品可です。
(2001,8,2 かめ吉様へ捧ぐ)
TOP 駄文小屋へ