幸福論



 本当の「シアワセ」って、一体なんですか?



 道行く人は俺が通った途端に端によってヒソヒソと話始め、人によっては頬を赤
らめて走り去って行ったり黄色い声を上げて俺を迎えた。(この大半は女性だが)
 何か変な格好でもしているのかと思ってマントやバンダナを見ても、別におかし
い所はない。よく木に引っかけたりドブに浸かってしまったりして汚してしまうこと
はあるが、今のところそれはない。髪型もさっき見たらいつも通りだったし、顔に
も変なモノは特についてなかった。それなのに、人々の反応はますます過剰に
なっていく。
 なんなんだ、一体?



 訳の分からないまま城の中庭あたりに行くと、今度は「おめでとうございます」
などとますます意味不明なことを言われた。別に祝われるようなことはないはず
だが。
 「おめでとうございます、フリックさん!!」
 「・・・アース、お前もか。」
 俺の目の前に現れたのは同盟軍リーダーのアース。最近は住人の増えた城
の増改築、商店街の整備などに夢中で、そういうことに長けた仲間も増え、城は
以前よりも更に栄えた。
 それはいいが、なんで俺が「おめでとう」なんだ?疑問符を浮かべていると、
アースが自分のことのように話し出した。
 「商店街でやってる懸賞、あれフリックさん当たってましたよ。」
 「本当か?」
 最近、商店街で1000ポッチ分の買い物をすると懸賞に参加できるというサ
ービスが始まった。商品に付いていたラベルを1000ポッチ分集めて、それを
商店街の中で営業している店に出して応募するものだった。景品の幅は広く、
1ヶ月の長期休暇からティッシュペーパーまであった気がする。俺は、当たる
わけがないと思いながら「長期休暇」の言葉に誘われて応募したんだった。
 「で、何が当たったんだ?」
 「一等の『長期休暇』ですよ!ホントにおめでとうございます!!」
 「・・・本当か!」
 自慢じゃないが、俺の「運」は人並み以下、ひょっとすると同盟軍一、二を争う
くらい悪い。戦闘中はもちろん、普段の生活だってそうだ。こういう懸賞でティ
ッシュペーパーだって当たらない。それを、いきなり一等だ。誰もがおめでとう
と言うかもしれない。みんな俺の運の悪さは良く知っている。
 「これで、心おきなくビクトールさんと一緒にいれますね!!」
 「ああ、そうだな!・・・・・・・・・ん!?」
 アースの口はとんでもないことを言った。ビクトールと・・・なんだって!?
 「な、なんでビクトールが出てくるんだ!?」
 懸賞に当たったのは俺で、ビクトールは全くこれっぽっちも関係ないはず。
休暇が取れるのは俺で、ビクトールは普段通り働くんじゃないのか?
 「フリックさん、説明くらい聞いてくださいよ。一等の景品、正式名称は『あ
の人と二人きりvで夢の一ヶ月』ですよ?まあ、みんな長いからって『長期休
暇』って略してるけど。」
 まだよく飲み込めていない俺に、アースは更に続ける。
 「つまり、一等当選者は同盟軍内の誰か一人と一ヶ月休暇を過ごせるん
ですよ。」
 「・・・それで、何でビクトールが?」
 「え、だってフリックさんて・・・。」
 アースは、本当に本当に恐ろしい子供だった。
 「ビクトールさんとデキてるんでしょ?」



 アースの言葉にショックを受けた俺は、宛てもなく城内を彷徨っていた。何
となしに酒場に行くと、多分今一番会いたくない人に出会ってしまった。
 「フリックさん!やっと見つけたぁぁああ!!!」
 ニナの甲高い声が耳に突き刺さる。グリンヒルから今まで飽きることなく俺
を追いかけ回してくる。今日も、きっとアノ事を根ほり葉ほり聞き出すんだろう。
他でもない、俺から。
 「あんな、あんなクマ男より私は劣ってるんですかぁ!?」
 「・・・・・・・・・。」
 何で休暇を貰うだけでこんなにメンド臭いことになるんだ。相変わらずの自
分の運の悪さにため息をつくと、酒場にいた客連中がわらわらと集まってき
た。その中には、この騒ぎのもう一人の張本人、ビクトールもいた。
 「まさか、アンタらがなぁ・・・。」
 「仲が良いとは思ってたけどなぁ。」
 口々に勝手なことを言い出した客の中から、押し出されるようにビクトール
が歩いてきた。俺と目があった途端、周囲がはやし立てた。まるでガキだ。
 「あー・・・、フリック・・・。」
 所在なげに目を泳がせたビクトール。なんとなく不安になっていると。
 「おう、フリック、ビクトール!元気か?」
 ゲンゲンが来た。普段は酒場には来ないはずだが、なぜかコボルトの少
年はここにいた。相変わらず元気なゲンゲンは俺の隣に来ると、やはり元
気な声で力一杯話し始めた。
 「この前、アースにビクトールとフリックのことを聞かれたぞ。毎晩何やって
るんだって。」
 やはり、俺の隣にいたニナが恐る恐るゲンゲンに聞いた。
 「それで、何してるって言ったの?」
 「おう!砦にいたころは毎晩部屋でプロレスしてたって言ったぞ!!」
 プロレス?特にそんな子供っぽいことをした記憶はないが。考え込んでい
たら、俺とゲンゲンとビクトール以外の客は皆潮が引くように俺たちから離
れた。何かゲンゲンは変なことを言ったか?そりゃ、大人が二人でプロレス
はかなり変だが・・・。そんなことを考えていると、ニナの悲鳴が響き渡った。
 「よっ、夜のプロレスって言ったら・・・!!・・・イヤァーーーーーーーッ!!」
 これを機に、他の客はますます俺たちから離れた。ビクトールは頭を抱え
ていた。何なんだ?
 「フリックさんて、ホンットニブいですねぇ。」
 「アッ、アース・・・。」
 この騒ぎの元凶が来た。とても子供とは思えない黒い笑顔で中心にや
ってきて、俺に耳打ちした。
 ・・・目の前が真っ白になり、次に真っ赤になった。プロレスって、プロレス
って・・・!!!
 「ヤだなぁ、フリックさん。僕はただ、砦から脱走したときにフリックさんの
部屋から妙な物音が聞こえたから気になってゲンゲン隊長に教えてもらっ
たんですよ。だからこういう事もわかったんです。ねぇ、ゲンゲン隊長?」
 「そうだぞ、フリック!隊長は部下のお願いには協力してあげないとダメ
なんだぞ!」
 もの凄く得意げなゲンゲン。どんどん黒ずんでいくアース。ガタガタ震える
ニナ。そして、諦めた様子のビクトール。・・・今まで隠してきた努力は全て
無駄になったわけだ。この年頃の子供は無駄におしゃべりだ。
 「ちなみに、一緒に逃げたジョウイも知ってますよ。多分、ハイランドでも
バラしまくってるんだろうなぁ。あと、ナナミにも言ってありますから。」
 アハハ、と楽しくてしょうがないという風に笑うアースが、俺には大魔王
かなにかのように見えた。
 「とりあえず、明日から一ヶ月、どうぞ楽しんでくださいねv」
 「よかったな、フリック!」
 「そんなぁー・・・。フリックさぁーん・・・・・・。」
 酒場の客も次々と退出していった。皆に弁明しても誰も聞かず、途方に
暮れた。そこに、すっかり開き直ったビクトールが。
 「まあまあ、たまにはいいだろ・・・、な?」
 「・・・・・・ッ、寄るな、バカ熊ーーーーー!!!」
 発情期に入った熊に天雷をお見舞いしてやると、辺りは黒コゲ。当然、
レオナの店は壊滅状態に。
 「・・・・・・フリック。」
 「フリックー・・・。」
 恐ろしい目のレオナには一ヶ月の店舗修復作業を命じられ、黒コゲに
なったビクトールは明日から一ヶ月「プロレス」をやめそうになかった。



 嗚呼、誰か俺に「シアワセ」を!!


・・・すみません。ギャグでもなければフリック受難話
でもないですね・・・。なんだこれは。こんなものでも
よければどうぞ頂いちゃってください!!(切実)
(2001,6,30 山田暁 サンサン様に捧ぐ)

 
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