テラスを行く流れと山野草の庭

こちらのお宅は、作庭後30年ほど経過した鳥海石の滝石組と池のある庭で、3年前から手入れに入らせていただいております。
初めて剪定に伺った時は、樹木が伸び放題に生い茂り、鬱蒼として日の光も入らないほど暗い庭でしたので、3年掛かりで透かさせてもらいました。

一服で縁側に腰掛けて気付いたのですが、視点となる応接間の真ん前にも、視線をさえぎるかのように雑然と樹木が植わっているのを不自然に思って聞いてみると、家の新築に伴って間取りが大幅に変わり、現在の応接間は以前の玄関だったとのことでした。
門の透かし戸を開けると右手に細長く池が広がり、アプローチを伝いながら滝石組を見られるという庭だったそうで、当時としてはなかなか贅沢な作りの前庭だったようです。

今回のご依頼は、そんな前庭だった庭を、建物に合わせて主庭に作り変えるというもので、改造のポイントとして
・視点となる応接間からの視界を広くする。
・樹木数が多いので、同種の物を寄せ植えして群落を作るような植栽法を取ることで庭の中に隙間を作り、暗い庭に日の光を取り込む。
・草取りなどの管理がしやすいように庭内に道を作り、回遊しながらお手持ちの山野草を眺められるようにする。
・奥にある池は家からは見えないので、庭の見所として近景にポイントを作る。
・加工した石材を使い、庭にメリハリをつけ、明るい雰囲気にする
ということなどを提案させていただきました。

打ち合わせの段階では、庭のポイントのイメージを畑に試作したモノと、簡単なラフスケッチ、平面図を併せて見ていただきました。

庭の構成としては、建物側の側溝の直線に合わせて、手前に直線的な大谷石のテラスを作り、近景に山の木を寄せ植えした疎林とバードバスを配置、流れにして排水桝まで流すというものです。
図面は水物、あくまでイメージなので、作りながらどんどん変わっていきます。図面通りに作られた庭が必ずしも良い庭ではなく、作った庭が図面以上のモノにならなければ話になりません。そんなことからも、これまで作った庭も幾つか見ていただきました。

庭の導入部となるこの部分には、土留のL字型擁壁がありました。庭の雰囲気を和らげながら穏やかに隠したいと思い、少しだけ壊させてもらって、残った石を積んでみました。

手前には、以前アプローチに使われていた平板を利用して、小さなテラスを作りました。できれば庭に二次製品は使いたくありませんが、捨てればゴミです。捨てるのは簡単、使えるものならゴミにせずに使い道を考えよう!ということで、こんな形になりました。アールを付けることで四角い平板に柔らかさを出し、庭とコンクリートの通路との馴染みを良くしています。コンクリートとコンクリート平板でコンクリ繋がり、四角い平板と大谷石で四角繋がり、両者に苔を絡ませることで違和感なく通路と庭を繋ぎました。

この石積、偶然ですが、ちょっと魚のようにも見えませんか。手前が頭で真中のコブが背びれ、後ろのトンガリが尻尾です。
縁側から見たところです。横から見るとこうなります。怪獣がうつ伏せになって手を広げているようでもあります。
少し離れて。やっぱり擁壁の部分のコンクリートが気になるので、現場から出た泥を塗りました。泥壁の後ろの石積は水道のバルブ隠しです。
左に行けば大谷石のテラス、真っ直ぐ進めば山道。既存のシャクナゲとエビネが山の雰囲気を盛り上げてくれます。
景石を避けるように山道は続きます.。左は土留の石積ですが、そこから一つ転がったように据えて、わざと道を曲げていきました。曲がりで出入りが付くと、庭に奥行きと広がりが出てきます。鳥海石にも硬い石柔らかい石、いろいろあります。石積には、溶岩のようなボコボコとした赤い石を使いました。

テラスの全景です。図面と変わって、庭の奥にもテラスを作り、テラスの中に庭があるような感じになってきました。この奥のテラスに座ると、家からは見えない池も見えます。四角い石は土留工事で石屋さんが残していった物で、ベンチにしました。
縁側から見た景色です。ここが近景のポイントになります。ナツハゼとウメモドキ、レンゲツツジの山物を寄せて疎林を作りました。身近な自然の山の景色に習い、幹の傾きを山側から谷側へと雪で曲がったように植え、谷に向かって枝を張らせるように組み合わせていきました。「自然には法がある」。これは私の師匠の教えでもあります。
上から見たところです。蛇行する流れとテラスの直線、硬い大谷石と柔らかい自然石の石張りの質感やコントラストがわかります。
この赤いモミジの下が、ご家族の集まる憩いのスペースです。テーブルを置けばお茶も楽しめます。戸外にあるもうひとつの居間として使っていただければと思います。
水源となるバードバスです。筧は剪定した枝を利用した物で、サルスベリの枝です。曲がりが面白いので使いました。この部分だけを少し土盛りしたのですが、石組周りに、鉢植えだったハイマツやシャクナゲ、ナツハゼを植えたら、高山の雰囲気が出て来たように思います。
筧の立ち上がりはバードバスと小滝の庭同様、石で囲いました。流木などを使う時、筧の取り付け口をどう処理するかで悩みますが、今回は石組に見せた景石風の囲いの中から出しました。筧の支えは、伐採されて残っていたナツハゼの根元の部分を使いましたが、ちょうど良くおさまりました。筧周りにもナツハゼの盆栽を植えたので、この枝葉を見え隠れしながら水が流れてくるという寸法です。
筧の出てくる立石の窪みには小窓があります.中に小さな穴が3つほどあるのが見えるでしょうか。夜になると、ここから微かな灯りがこぼれます。
夜になりました。ほんとに微かですが、こんな灯りが闇夜にボワッと浮かびます。これが燈篭では和風色が強くなりますし、光るとわかっていては面白くない。灯りは初めて試しましたが、光るはずのない、ただの石組から灯りがこぼれるという意外性は、訪れるお客様を楽しませてくれます。ここでは、備え付けのライトで夜も庭を見ることが出来ますが、それを消すとこの灯りが現れます。夜の庭に、もう一つ楽しみが増えました。
バードバスから繋がる流れ。手前の景石に合わせたカエデも鉢植えでした。根曲がりの様子が雪国らしさを感じさせてくれます。流れは、掃除がしやすいように粘土で仕上げていますが、所々を盛り上げて瀬を作りました。黄色と朱色の混ざった粘土のマダラ模様が面白いです。
流れの終点は池。当初は手前左端の排水桝に流す予定でしたが、同じ庭に水場が二つあるのも変だと思い、池に流し込みました。丸い沢飛石は「ガッコ石」です。秋田弁でガッコは漬け物、漬け物の重しにする石を再利用、三つありましたので、沢飛びと水分けに使わせていただきました。左端の石の脇に大文字草が咲いています。その隣には雪割草。
護岸の鳥海石の石張りです。苔目地にしました。流れには、景色と水の流れを変えるために少しだけ砂利を敷きましたが、これは、現場から出た土をふるったものです。何でも使います。ちょうど粘土の色合いと小砂利の色が同系色だったので良かったです。
大谷石と鳥海石のなじみを良くするために、ポイント的にテラスの中にも苔目地の石張りを入れました。二つ作ったうちの一つは石張りにしましたが、こちらは石組みの近くなので、露頭岩のように見せたいと思いました。前日の風で、もうモミジの葉が落ちてきました。
バードバスの後方から流れを見た景色です。
斜め後方から。ナツハゼの盆栽の間を行くサルスベリの筧です。
縁側から見る景色の裏側。テラスの石のベンチに座ってバードバスを眺めると、こんな感じです。
縦長のバードバスの台石を正面から見るとこんな感じ。いろんな角度から見ると、台石の表情が変わります。長い台石を伝う水の様子が面白くて、この台石を選びました。水は四方に落ちるので、裏側にも流れになっています。


あとがき

今回の庭づくりでも、粘土の流れ、石組みの灯り、擁壁隠しの石積、平板のテラス等、いろんなことを試すことができました。どれも設計段階では無かったことで、全て現場での思い付きです。

「穴を掘ったら粘土が出てきた。なんかに塗ってみるか。」、「砂利が出てきたぞ。流れに使ってみようか。」、
「このコンクリート隠したいな。余った石を積んでみようか。」、「この根っこ、どうしようか、筧の支えにでもしてみようか。」、
「この平板、捨てたらゴミだぞ。なんかに使えないか。」、「このコンクリ塀の苔、目地に使えるんじゃないか。」など、
全てがそんな感じの庭づくりなので、作ってる方も楽しくてしょうがありません。
現場で出て来た予期せぬモノを素材にするかゴミにするかは、施主の希望というよりは作庭者の意識の問題です。せっかくそこにあるものを臨機応変にどう庭に活かして行くかが大切なのではないかと思います。材料屋に行けばキレイな材料は買えますが、この土地とこの家の味は出せません。石を洗ったり振るったりする手間や加工する手間にお金を掛けるか、手っ取り早く材料屋にお金を払うかのどちらを選ぶか、予算と見た目と効率との間で、これはいつも葛藤することです。
ここにあるものはここにしかなく、これでしかこの庭の味は出せないという思いでやりましたが、植木屋の仕事というのは、本当に「考える」のが仕事だなと、つくづくそう思いました。
灯りも、そんな感じの思い付きの一つでしたが、閃いたはいいものの、初めてなのでどうやったらいいのかわかりませんでした。偶然、ご主人が電気関係の仕事をされており、相談してみると、器材の購入から取付、配線まで全てやってくださいました。水道の配管もご主人の仕事です。粘土も、ご主人の掘った穴から出てきたもの、休みの度に庭でいっしょに働いてもらいました。本当にお疲れ様でした。
漬物のお上手な奥様の、大事なガッコ石まで庭に使ってしまいましたが、毎日の一服は本当に楽しみでした。スタッフみな、かなり栄養がついたのではないいかと思います。本当にお世話になりました。竣工祈念にお友達を呼んでテラスでお茶会をされるとのこと、落ち葉の舞う季節になりましたが、楽しんでいただければ本望です。今回も、庭師冥利に尽きる仕事になりました。本当にありがとうございました。

2006年11月作庭 能代市

今回の庭づくりの様子は、コンテンツの「庭が完成するまで」の中でも、詳しくご紹介しています。そちらもご参照ください。

おまけ

休みの日、試作で作った泥だんごを手に、ご満悦の長女。この後奥様からお菓子をもらって喜んでました(笑)。


作庭集

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