■ 白 虎 封 印 ■


今、私は白虎の龍脈へと近づいている。
・・・・・・・・一歩、一歩・・・・・歩を進める度に、大きな流れと力に近づいている事が感じられる。
私の足元にあるのは、濡れた地面・・・・・だが、それ以外のものは闇に覆われて何も見えない。
・・・・・・・・・・不安はある。
だが・・・・今、それに囚われる訳にはいかない・・・・。
・・・・・・・・風水師として、一人の人間として・・・私には守るべきものがある。
そう心の中で呟いた私の脳裏に浮かんだのは、私の唯一の家族である妹の事だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・妹?

・・・・・・・・・・・違った、あれは『弟』だ。しかも双子の。
・・・・・いけない。
生まれた時からの付き合いだというのに、時々、あいつの性別を忘れそうになってしまう。
・・・・まだボケるには早い年だというのに、何故かあいつに関しては物忘れが激しい。
しかし、何故だ?
記憶を辿る。子供の頃の記憶から順に・・・・・・・

リボンを付けて喜んでいた、学生時代に演劇部で姫君役に抜擢された、今は踊り子をやっている。
・・・・山と積まれた手紙は、何故か男からのものが多かった・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故、まともに男の格好をしているあいつが出て来ないんだ・・?。

いかん・・・唯一の家族に対して、しかももう会うこともないというのに、こんな事でいいのか。
・・・・・・いい訳がない。
私はもう一度、記憶を辿った。多分・・・藁にも縋るような気持で。
そうすると、自分の事も自然、蘇ってくる。

そういえば・・・・・あいつが姫君役になった時、『双子の姉役で』とか、何とか言ってきた奴がいた。
・・・・・・・・・・・・・・・まあ、昔の事だ。

風水師の同僚が、あいつを『妹』と呼ぶのを何度訂正した事か・・・・・・・・
・・・・・・・まあ、あいつのなりを考えれば仕方ない。

だが、前も劇場に行った時に楽屋に引きずりこまれそうになったことが・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・人間、一度や二度や三度や四度の間違いはある・・・・・・・・。

このあいだ、あそこの踊り子・・・・ベロニカ嬢に化粧をされかけた事が・・・・・・・
・・・・・・・・・あ、あ、あれは彼女の冗談に決まってる・・・・・・・・!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

な・・何故だ!? 何故、あいつが絡むと、こうもロクな思い出がないんだ!?
・・・・・大体、小さい時からあいつは女装しかしなかった。
おかげで、こっちまで女に間違われたり、女役で演劇部に呼ばれたり、『女装が似合いそう』とか言われたり、
ベロニカ嬢のおもちゃにされたり、結婚式場から案内の電話がかかってきたり・・・・・・・!!

・・・・・・・・・・・・・いかん、邪念に囚われては元も子もなくなる。
・・・・・平常心だ、平常心・・・・。

しかし、あいつは将来はどうするつもりなのだ。
あのままでは嫁の行き手・・・いや、婿の行き手もないではないか。
ベロニカ嬢にでも貰ってもらうつもりか?
あの兄さんだって困るだろうに・・・・・見かけによらず常識人だし・・。
だが、あいつがきちんとした所に落ち着くまでは、私だって安心出来ない。
せめて、きちんと見届けなくては、おちおち龍脈にも行けないではないか。

・・・・・・・・・・・・今からでも、戻って一言なりとも何か言うべきではないだろうか?。
まともな仕事につけとか、女装はいい加減止めろとか、早く婿・・じゃない嫁を見つけて
実家の両親を安心させてやれ・・とか・・・・・。
やはり、一度戻って・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・ん?
邪気を感じる。見立てを拒む力か・・・・・!。
・・・・・今の私の想念が呼んだのか・・・・・・余計な事を考え過ぎたか・・・・・!。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・って・・・・今のも、見立てを拒む『邪気』扱いになるのか!?
・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・なんて理不尽な・・・・・・・
私の身体が石に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・石になっていく・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・やっぱり、あいつが絡むとロクな事がない・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



   10年後

あいつに託した羅盤を手にした青年が、私の前にいた。
神獣の見立てを行う者・・・・・陽界から来た超級風水師。
私は彼に全てを語った。
陰界の風水の事、宿命の事、私の身に起きた事全てを・・・・・・。
「・・・・今や10年の歳月が、私を無に返してくれた。君こそが私を見立てるのだ。
私の身体を封じている、すべての石を取り除いたその時に!」
最後の力を振り絞った私の叫びを、彼は確かに受け取ってくれた。

・・・・・・・だが・・・・・もうひとつ
彼の視線は私の叫びに、銀色極楽の方を一瞬だけ向いた。
そして、それが私の方を向いた時、その目ははっきりと、こう語っていた。
哀れみに似た同情と共に。
『そりゃ・・10年も立ちゃあ、あきらめもつくわな・・・・』
・・・・・・・・・・・・・と


終幕



風間翔さん作。
……どうしようもなく笑いがこみ上げてきます(笑)。
最初はスイジェンの悲壮な決意の行動だと思っていたのに!!
読んでいくうちに「あれあれ??」と……(笑)。
コミカルなKG話(しかも真面目キャラクターを使ったもの)はあまりないので、
大変貴重なものを読ませていただきました…………ぷっ!(←思い出し笑い中)
(初出:妄想遊戯出版社)


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