玄 武 継 承

ああ・・・そうだな・・。
俺は多分・・ずっとあんたを恨みたかったんだ。

ガキの頃・・お袋や街の連中から、親父とあんたの事は聞かされてたよ。
親父は道光帝と一緒に、この国の礎になって死んだんだってな。
・・・・・けど、ガキの俺にはそんな事はどうでも良かったんだ。
国がどうとかよりも、ただ親父に会ってみたかった。
だってそうだろ・・?
俺の周りの友達はみんな親父やお袋と一緒にいるんだ。
俺のダチの父親で、親父と仲良かったおっさんがいてさ・・そいつが俺見るたんびに話するんだよ・・・。
親父の話をさ・・酒に弱くて一滴も飲めなかったとか、
お袋に結婚申し込む時はなかなか言い出せなくて大変だったとか・・・

そう、お袋が俺を身篭った時の話もしてくれたっけ。
・・名前考えるのに、女と男の名前を考えるだろ?
それが、女の方はすぐ出たのに、男の方・・俺の名前がちっとも出なかったってさ。
何でだと思う?
立派な名前、いい名前ってこだわりまくって近所に聞き回ってたからだぜ?
苗字外せば、どうせ一文字しかないのにさ・・その一文字に大騒ぎしてたんだよ。
聞いた時は腹抱えて笑ったね。

・・・・・でも・・・寂しかったよ。
そんなに俺を思ってくれた人に、俺は一度も会えなかったんだって・・・思ってさ・・。
それにお袋がさ・・元々あんまり丈夫じゃなかったんだ。
だから・・・お袋を元気にしたくて医者を目指してた・・それも確かだよ・・。
でも・・俺はきっと親父のようになりたかったんだ。
お袋は『医者になるなら』って、遠くの学舎に俺を行かせてくれた。
そこで勉強して立派になるまで戻ってくるな・・てさ。
さすが、あの親父の嫁さんだけはあるって思ったね。

お袋は、何もかも知った上で親父の元にあんたを行かせたんだろ・・・?
お袋は強い女だった・・いざとなれば自分の身を切れる人だったんだ。
・・・・それは、俺よりもあんたが良く知ってるだろ・・・?
俺は・・その事知ってたから勉強したよ。
当たり前だろ・・俺は親父みたいになりたかったし、お袋を助けたかったんだから・・・・
でも・・・・

でも・・・お袋は俺が医者になったその日に死んじまった・・・。
俺が今の姿になったのは・・・それからだったよ。
水を・・鏡池に流れる川の水を見てたんだ・・。
お袋の葬儀が終わってから、ずっと・・・流れを見ながら考えてたんだ・・。
どうしてもっと早く、帰れなかったんだろうって・・・・・。
あそこの川は流れが速くてさ・・・これくらい速ければ・・・って、思いながら見てた。
ガキの頃にさ・・よく、許婆さんに聞かされてたんだ。
水の底には死者の国があるんだって・・・・・。
じゃあ・・俺が水になっちまえば、死んだ親父に会えるんじゃないかって・・・その頃は思ってたんだ。
それに玄武って水の神様なんだろ?
親父がそれになったんだから・・俺も水になればお袋を守れて、親父にも会えるかも知れないじゃないかって、な。
・・・・・・・・・・・ガキの考える事さ・・・。

でも、あの時はそればかりが頭ん中に回ってた・・・・。
それで・・・・・・いつしか、俺はこの姿になってたんだ・・。

こうなって一番最初にやったのは・・土に潜る事だったよ。
何でかな・・きっと親父の死体か、何かを見たかったんだな。
それがあれば・・・それがお袋と一緒の墓にいれば・・俺は安心出来たんだと思う。
でも・・・お袋の骨はあっても、親父は・・髪の毛一筋さえも無かったよ・・。
そうだよな・・親父は・・神獣になっちまったんだからさ・・。
でも・・それを見た時、俺は初めて恐くなったんだ。
俺も骨も残さずに消えてしまうのかってね・・・。
・・・・・・・・だからずっと・・逃げてたんだ・・。
運命から・・・・そして・・それを持って現れる筈のあんたから・・・。

ああ・・でもさ・・。
あんたに会って、分かったよ。あんたの運命って奴がさ・・・・。
そんな顔してるのは・・・あの子を見立てたからなんだろ・・?
親父がいなくなってからは俺にとっては長い時間でも、あんたにとっては、ついさっきの事だったんだろ?

・・・・その時も、あんたはそんな顔をしたのかい?

俺が玄武になるのと同じくらいに・・あんたは『置いていかれる』事が・・運命にあったのかな・・?
あんたは・・・この世界でたった一人になるのかい?
・・・・・・・それが運命なら、あんたが、それを知ってるなら・・・
どうして、あんたは逃げずにいられるんだ・・・。
そんな顔をして・・そんなに傷付いて・・・どうして羅盤を捨てずにいられるんだ・・・・・・?
陽界の人間ってのは、みんなそうなのかい?
あんたみたいに、感情を隠すのが下手クソでお人好しで・・・・・なのに、そんな風に立ち向かえるのかい?

・・・・・・・ああ・・・・
俺も・・最後くらいはあんたみたいに行こうかな・・。
どこまでが自分の選んだ道で、どこまでが運命なんてのは分からない・・・
けど・・今の俺は、間違いなく自分で選んだ『俺』なんだ。
確かに・・・・・俺はずっと、あんたを恨みたかったんだ・・。

けど・・・
それでも・・・

あんたに会えて良かったよ・・・・・・。



風間翔さん作。
玄機に限らず、KGの登場人物たちはどれが運命で、どれが自分で選んだ人生だったんでしょうか……。
風水師は過去と現在を行き来し、さらに未来という重責までも持っています。
一週間、十日、一ヶ月、一年……プレイヤーは長い長い時間をかけてゲームをクリアしていきますが、
劇中、風水師の時間は三日と経っていないはず。
数え切れない出会いと、同じだけの別れをほんの数瞬のうちに体験しているのでしょう。
それでも。
別れのその時に、この玄機のように言って貰えたら、「彼」自身どれだけ救われることでしょう……と考えてみました。
(初出:妄想遊戯出版社)


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