空も飛べるはず

 鳥になりたかった。
 自由に空を飛べる、翼の大きな。
 でも、わたしはここにいる。
 いつまで?

 わたしは、総てを知っているの。
 両腕はないけれど、それを補うものを持っているわ。
 両足はないけれど、それを庇えるものを持っているの。
 大した不自由はないけれど、閉じこめられるのは大嫌い。
 
 ここにいるのは、わたしの意思。
 だって、誰かにこんな姿を見せるのはイヤだもの……こんな醜い姿。
 でもね、わたしは総てを知っている。
 それが、わたしの武器……そう、わたしは自由になるの。
 そのために必要な人物を、この間見つけたわ。
 さあ、失敗は許されない、大きな勝負にでなくちゃいけない。あのひとに見つかる前に……ね。

「お前は、とんでもない悪党だよ」
 そう言ったのは、あのひと。
 あまりにも醜くい、名前も呼びたくない、あのひとに、以前言われたわ。
 失礼ね、わたしのどこか悪党なの?
 こんなにも素直で尽くしているというのに。
 わたしはね、あのひとのために、こんな姿になったのよ?
 それを、どうしてわたしを罵るのかしら?
 
 わたしは、閉じこめるのが大好きなの。

 鳥になりたかった。
 だって、自由の象徴だもの。
 だから、小鳥をもらったの。
 白くて、小さくて、かわいいマリア。
 逃げられるのが怖かったから、鳥かごに閉じこめたの。
 あのかごがある限り、マリアはわたしから逃げられない。
 そっと閉じこめて、可哀相ね、って慰めるの。
 翼を持っているのに、空を飛べない鳥なんて、哀れと言うしかないじゃない?
 そうさせているのは、わたし。
 逃げちゃダメよ、マリアはずうっと、わたしだけの小鳥なんだから。
 
 ふふふ。

 そう、わたしは、総てを知って、総てを閉じこめたいの。
 わたしだけが、真実を知っているのよ。
 こんな気持ちがいいことは、他にはないわ。

 蛇老講がなにを企んでいるか、そんなのとっくの昔に知っていた。
 なんてお馬鹿な連中なんでしょう!
 ニセモノの「鳴力」なんかで、本気で「不老不死」なんて出来ると思っているのかしら?
 そんなお馬鹿な連中のために、わたしは尽くしているの。
 なんて心の優しいわたし、可哀相なわたし!!
 うふふ……なんて楽しいのかしらね。

 さあ、ゲームを始めましょう。
 わたし、閉じこめるのは大好きだけど、閉じこめられるのは大嫌いなのよ。
 それを忘れているなんて、あのひとも頭が悪いわね。

 ネットに忍び込む……こんなの、簡単よ。
 そして、言葉巧みにあの子の心に入り込むの……優しいコニーがあなたを守ってあげる、ってね。
 そうよ。
 あの子は、正真正銘の「鳴力」の持ち主。
 そして、わたしの大好きな鳥……「朱雀」に見立てられる運命にある、可哀相な子。
 ふふふ……朱雀を閉じこめられる駕篭、ここら辺にはないわね……諦めるわ。
 それと、もう一人。
 陽界から来た、風水師。
 彼にも連絡を取らなくっちゃね。
 だって、彼があのひとを殺してくれないと、わたしが自由になれないんですもの。

 わたしは、総てを承知で、妄人になったわ。
 
 閉じこめるのが、大好きなの。
 総てを手にしていないと、気が済まないの。
 あのひとの下らない「妄想」を取り込みながら、わたしは、わたしのための情報を仕入れたわ。
 ……ちょっと、窮屈になってきたわね……もう少し、もう少しよ。
 そうしたら、あのひとに、一番非道い仕打ちをして裏切ることができるわ。
 こんな姿を強要したんですもの。
 わたしはね、鞄でなく、大きな大きな駕篭になりたかったのに……ああイヤだわ、こんな姿。
 鞄はキライよ。
 だって、収納できる情報が少ないんだもの。
 わたしは、ネットに潜む者。
 だから、パンクしそうな鞄なんて、御免だったのに……。
 
 わたしをこんな姿にさせたのは、あのひと。
 小さい頃に見た、おもちゃの鞄が欲しくて欲しくて、忘れられなかったんですって。
 だからといって、なんでわたしがその鞄にならなくちゃいけないんでしょう?
 イヤだわ……いいえ、イヤじゃないわ。
 わたしは、閉じこめるのが大好きだから。
 
 そっと、ネットに忍び込むの。
 なんて素敵!!
 ここには総ての情報があるの……ええ、他のひとたちには分からないでしょうけど、わたしには分かるの。
 0と1で埋め尽くされている、わたしだけの世界。
 さあ、可愛いわたしの情報たち、教えて頂戴、彼はどこまで進んだの?
 あの子は、どこまで追いつめられたの?

 うふふ……なんて楽しいんでしょう!!
 あのひとが何を望んでいるのかなんて、そんなの知っているわ。
 わたしは、総てを知っているの。
 そういう存在なの。
 だから、それを壊してあげなくっちゃね。
 わたしを閉じこめてくれたお礼よ……なんて親切なわたし!!
 うっとりするほどに優しくいわたし!!
 だからね。
 このゲームは負けられないの。
 わたしの命をかけているからね。
 
 鳥になりたいの。
 そのために、この閉じこめた荷物を捨てるの。
 だって、足かせなんていらないわ。
 わたしは、総てを知っているのに、自由になれないの。
 だから、捨てるの。
 こんなものは、いらないの。

 わたしは、空を飛びたいの。
 わたしは、総てを手に入れて、遠くの空を飛びたいの。





理々子さんより: 
うう、なにがなにやら(涙)。コニーは、本当はイヤなヤツなんだよ、って言いたかったのに(笑)。
悲劇の女王は、本当は腹黒い可能性だって、あるかもしれない。
それを上手く表現できませんでした……ただ、命かけてまで、仕返しできるのか?
そして、なんで鞄になったのか?ああ、本当に訳わからん(涙)。
コニー、大好きなんだけどね……三番手は、引き出しがもう、ないんだよ(笑)。


華天より:
今までにない斬新な解釈で、あたしゃびっくりサ(笑)。
プレイヤーの数だけ、他のキャラクターも生きているんだなぁと、改めて知る思いです。

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