眼。
 目が醒めると、左側が真っ暗だった。仕方がない。眼帯をしているのだから。
 修学旅行早々にものもらいを貰ってしまって、京都に着いた途端に病院直行だった。
 ぼりぼりと頭をかきながら起き上がると、周りのやつらがなにやらくすくす笑っている。
 ピンと来た。慌てて洗面所に駆け込む。
「ああああ!!!」
 俺の叫び声と共に、やつらは爆笑を始めた。バシバシと布団を叩く音まで聞こえる。
 鏡の中、俺の眼帯は真っ黒に塗りつぶされていた。
 その上白ヌキで「柳生(偽)」と書かれている。
「何だよこれ!!」
 怒りを抑えて事情説明を求める……が。
「……伊達の方がよかったか?」
「伊達政宗って、右目じゃなかったっけ?」
「じゃあ柳生でいいじゃん」
「ちがーーう!!」
 俺は枕で伊東、土方、斉藤の頭をべしべしぶん殴った。
「左だったっけ、政宗?」
 近藤にも一発。
「オラ、マジック寄こせや藤堂!」
「いやぁ、優しくしてェン」
 しなを作る藤堂を蹴っ飛ばす。
「ぐはぁ!! ロープ、ロープ!」
「おぉっと原田選手、蹴りは反則です!! あっ、何をするんですか止めて下さいぃ!」
 実況の山崎が持っていたマイクを奪い、俺はトップロープへ駆け昇ってマイクパフォーマンスを……するかオイ!
 マイクならぬマジックを奪い、洗面所へ行って「柳生(偽)」を塗りつぶした。が、マジックが何だか山崎の唾臭い気がして、石鹸をつけて念入りに洗う。
「原田ァ、さっさと出てこいよ。俺らも顔洗いてぇ」
「そうそう。今日は自由行動なんだから、ちゃっちゃと着替えろよォ」
「うるせェ! お前ぇらのせいだろ!」
 叫んでる間にも、やつらは洗面所に入ってくる。ぎゅうぎゅうで身動きのとれない中、俺たちは無理矢理顔を洗った……。



 嵐山&太秦映画村。
 そこが自由行動の目的地だ。遊びっぱなしだとルートの許可が貰えないから、一応天竜寺ほか幾つかの寺社仏閣を組み込んではいたが、誰もそこに行く気はない。勿論、俺も。
 午前中は嵐山でぶらぶらした後、映画村へ直行した。
 目玉は時代劇扮装。
 施設の中を軽く見てまわり、意気揚々と扮装屋へ行く。全員新撰組になって、市中警護の練り歩き……と思いきや、新撰組の衣装が一つ足りない、ときた。
 視線は俺に集中する。
「ありますよ、衣装」
 ニッコリ笑った係のお姉さんのおかげで、俺の扮装は柳生に決まった……。



「おや、柳生の旦那ァ。今日はどちらへ?」
 艶っぽい芸者が声をかける。井上だ。バスケで鍛えたの長身が、小股の切れ上がったいい女になっている。あの体育会系がこんなになるとは、やはり和服はいい。うむ。
 ……などと一人頷きながら往来を歩く。新撰組からは「時代が違うから」と弾かれた。なんて友だち甲斐のないヤツらだ!
「お助け下され、柳生殿ッ!」
 と、いきなり姫様が駆け寄ってきた。
「悪漢に追われておりまする。どうかご助力を」
 こんな美女姫、誰がなったんだろう……と思いながら、俺はノッて頷いた。
「お任せあれ、姫様。この柳生十兵衛、命に代えましてもお守り申し上げます」
「ああ、柳生殿」
 ひしと姫様に抱き付かれ……ああ、健全な男子高校生は、白粉の匂いにくらくらデス。
「ここにいたか、姫ェ!」
 土煙を上げて俺たちの回りを取り囲んだのは、……コトもあろうに新撰組だった。
「その女を引き渡して貰おうか」
 近藤が大真面目な顔で言う。こいつヅラ似合うな。
「徳川家の血筋を語る不届き者だ、成敗せねば!」
 山崎が刀を構える。運動音痴め、なんてへっぽこな構えだ。涙が出てくらぁと眉間を押さえようとしたとき、斉藤と伊東が両脇から斬りかかってきた。間一髪でかわしたが。
 ……ほっぺたが、薄く切れた。
「お前ぇらアブねぇぞ!!」
「危ないのはそちらの姫様だ。かばうなら、容赦しない」
 冷たく近藤が言い放つ。眼がマジだよ……。
 どこまで芝居か本気か分からないが、万が一でも姫様に傷をつけたら……突然婚約者が出来る羽目になるだろう……。
 姫様の手を引き、背にかばい胸に抱きながらあいつらの攻撃をかわす。身体に直接当たってはいないが、如何せん眼帯のため、距離感がわからない。幾つかは身体をかすり、とうとう髷の先が零れて落ち武者状態になってしまった。やっぱこれって弁償?
「お前ら、何を手こずってるんだ?」
 その声に、新撰組が道を開く。そのまん中を堂々と……土方が歩いてくる。手には抜き身の刀を持って……竹光だよな? 竹光だって言ってくれ!!
 俺を見据え、刀を構えるその格好の決まりっぷり! 憎らしいぜ剣道部ぅ。
「刀の中子が血で腐る……」
 うぉお!! その科白はヤメローー!!
 振りかぶった土方に、姫様をかばいながら眼をぎゅっとつぶった。


 ごちん





 そしてフェイドアウト、である……。



「うわ、痛そ……」
 伊東の声が上から振ってくる。俺はどうやら地面に伸びてるらしい。
「土方ァ、本気出すなよ」
 誰の仕掛けだよ、近藤。こんなん考えるの、お前ぇしかいねーよ。
「安心しろ、峰打ちだ」
「峰でも竜太でも痛いモンは痛いよ。あーあ、でっかいたんこぶ……原田君、可哀相に」
 その通りだ、山崎。ありがとう心の友よ。
「原田、生きてる?」
「生きてるぜ、藤堂……でも実名入りの遺書書いて自殺してやる……」
 それだけは止してぇぇ〜、という叫ぶ声を聞きながら、俺はようやく眼を開けた。
 相変わらず左側が真っ暗だ。
 が。
 白粉の匂いが間近にある。アタマの下も、人肌に温かい。健全な男子高校生は飛び起きた。まさしく姫様、しかも膝枕をしてくれていたのだ! 何というヨロコビ! 痛みの涙は感涙に取って代わる。
 が。
「おー、元気元気!」
 ゲラゲラと笑いだしたその声は……。
「……藤堂か……」
「おうよ。演劇部も伊達じゃないだろ?」
 不覚ッ。
 一っっっっっ生の、不覚。
 痛む頭と傷ついた心を抑えながら、俺はよよと泣き崩れた……。


教訓
 物事は片目で見てはいけないということ。
おしまい。





◆タイトルは「眼。」、修学旅行に行ってものもらいを貰ってしまった男の子の話、という設定で、
恵潤と競作しました。本当はこっちを出す予定だったんですけど、恵潤が「シンクロ率の測定をしよう! ということでホラーを書け」
とおっしゃるので、競作の作品はホラーになります(笑)。
競作ホラー版は、私の書いたものを恵潤がレイアウトして彼女のページに載せ、彼女の作品は私のページに載ります。
これは文章&デザインセンスの丁々発止……というより、互いのHPの客層交流の意味合いがつよいかも(笑)。

久々にコメディーを書いてみたんですけど、いかがでしたでしょうか?
普段の会話でなされるボケやツッコミ、会話のスピードが伝わればいいなぁと思ってます。

あと、今回は「DIV style」というタグを使いました。行間が微妙に空いてるでしょ?
少しは見やすくなってる……かと思います。これはよく遊びに来てくれる小里さん篁さんに教えて貰いました。ありがとうございます。
皆さまもどうぞ使ってみて下さい。(ばしばしソース覗いて下さいませ)


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