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愛している、とその方は仰ってくださいました。
わたくしを愛している、と。 本当に嬉しかった。 けれどわたくしはあの方と共に歩むことはできません。 なぜなら……。 公演が終わると、あの方はいつもテントの裏へとやってきます。毎日違うお菓子と花束を持って。綺麗な細工のお菓子は、団員全部に配ってもたくさん余るほどですし、花束はわたくしの部屋を天国のようにしています。 その方は、背が高くてとても美しくていらっしゃいます。街でも高名なお方です。その方が、何をどう間違えたのでしょう、わたくしを愛していると仰るのです。 わたくしは驚きましたし、同時に天にも昇るような心地になりました。だってわたくしも、その方を好ましく思っていましたから。 けれど。 わたくしとその方は、決して結ばれはしないのです。 「サーカスを辞めて、僕のところへおいで」 この優しい声。この声でわたくしの名を呼んでくださるのなら、どんなに至福なことでしょう。 けれど、幾度お声をかけていただいても、わたくしの答えは一つだけなのです。 「出来ません……」 「何故」 「……出来ません」 出来ることは、ただ涙を流すことだけ。 わたくしが泣き出し、困り果てたあの方がわたくしに一つキスを下さり、そうしてお別れです。いつもの儀式です。このシティで公演を始めてから、毎日のことなのです。 でも今日は少し違いました。キスの後、あの方はわたくしの耳元に口をよせ、優しく髪を撫でながらこう仰って下さいました。 「身分を気にしているなら、それは全く構わない。世間は僕を変わり者と呼んでいる。君が僕の元に来たって、変わり者が変わったことをしたと思うだけだから」 その言葉に、どれ程すがってしまいたかったでしょう。わたくしは絞り出すような自制心で以て、あの方の胸に飛び込むことを、諦めたのです。 「ごめんなさい……」 「何故泣くの? 誰にも君の事をとやかく言わせない。僕が君を、全力で守るから」 その時ガタンと音がして、団長が現れました。 「またお前さんですか。何遍言ったら分かるんです? お前さんとウチの娘じゃ、違うんですよ、根本が。いい加減にしてくださいよ?」 ほら来い、と団長はわたくしの腕を掴むと、幕の中へ引っ張って行きました。泣く泣くわたくしは従います。 背に、あの方の声が届きました。 「僕は諦めないよ、君がヒトでも。僕は諦めないから!」 閉ざされた幕の内側で、団長が忌々しげに吐き出しました。 「今やヒトよりもヤツらの方が多いがな、ヒトでなしのくせに、人間を娶ろうなんて、そんなことは絶対に許せるはずがない、ヒトとして!」 わたくしはヒト。 あの方はヒトでなし。 本当は、些細な事なのでしょう。相手を信じる心さえあれば、どんなものでも乗り越えられる、いにしえの恋人達のように、恋の翼で。 けれどもこれが、わたくしの最後の距離なのです。 |
宇多田ヒカルシリーズ第2弾(笑)。
ほんのりSF風味です。