眠らない街は、だから目醒める事もない。
[5]
[5.1]
僕が『電脳』の壁に挑むのは、別に機密が欲しいからじゃない。そこに壁があるからだ。ゲームキッズのサガ。
なーんて粋がってはいるけど、壁は正しく鉄壁で、崩すことは容易じゃない。何人もが挑戦し一枚も破ることが出来なかった。僕もその一人。
だけど。
それを崩した奴がいる。
一人は「ラサ」。勿論ハンドルネームだ。八年前に初めて『電脳』の壁を破った奴。残り一枚まで肉薄したって伝説。まあ幾らか色が付いてるとしても、最初の快挙は永遠に残る。
「ラサ」はもう引退して、行方は全然分からないけど、その後を継ぐ奴が、現れたんだ。
そいつは「アレス」。畏れ多くも火星の守護神の名をハンドルにしてる。
「ラサ事件」の後、壁は強化されまくった。けれど「アレス」はそれを越え、一気に二枚、破ったらしい。そいつは二、三ヶ月ぐらい前の事だけど、今もディスプレイには、「アレス」が連盟の情報局が焦る程に攻撃を繰り返しているのが見える。
僕は震えた。多分他のゲームキッズも。
新たな英雄の登場に。
そして興味を持つ。
彼の技術に。
[5.2]
昼となく夜となく繰り返される攻撃。
普段の「子ども達」程度なら、余裕でかわせるのに、このたった一人からの攻撃に、身も心も削られていく。
情報局だからこそ、辛うじて防御が間に合っている状態だろう。だが犯人の追跡にまでは至らないし、幾ら優秀でも彼等の体力・精神力は底なしではないのだ。
自分は昔、優秀な学者だったらしい。その頃の自分がスタッフに加わっているなら、彼等の苦労も少しは楽になるだろうか。
私はD・D。
ダイアナ・デプスは既に居ない。
そしてこの思考も記録される。
[5.3]
久遠は耳朶に手をやった。ピアスの冷たさが鋭く指を刺す。流行遅れ……というより玩具のような安っぽいデザインだが、久遠が子どもの頃からしているものだった。
これをくれたのは幼なじみで、藍色の瞳の利発な少女だった……はずである。名は確かダイアナ。
「私たち、火星の子だけど月の名を持っているわね」
そう笑ってピアスをくれた……と思う。
幼なじみの少女は、長じて連盟の『電脳』となったようだ。
多分この推理で間違いないと思うが、今ひとつ確信が持てない。幼なじみの記憶は厚い霧に覆われて、朧気に思うのに掴むことができなかった。
ダイアナ・デプスがD・Dとなる時、星系中の彼女の情報記録が全て訂正された。幾つか発表していた論文は全て「匿名」となり、彼女と関わりの深かった人物にも、記憶の訂正が行われた。
久遠の、恐らく幼少のD・Dであろう記憶が曖昧なのは、訂正の行われた証であろう。つまりうっすらと思い出す少女は、D・Dその人であるということだ。だがその論法すら打ち消してしまう程、訂正は確実で記憶はぼんやりしている。
内ポケットのメモ帳がぶるぶると震え、久遠は考えるのを止めた。取りだして画面を見ると、区内地図に赤いカーソルが点滅している。地点はすぐそば。コートの裾を翻し、久遠は雑踏を走り出した。
久遠とグラウエンは別行動をしていた。D・Dへの攻撃を逆探知するのがグラウエン。それを受けて現場へ向かうのが久遠である。
「少しプログラム作成を囓ったことがあるんで」
と情報局へ向かったグラウエンだが、三日程で結果を出してくるとは、局も久遠も思ってはいなかった。
あんまり良い出来じゃないんですけど、と差し出された逆探知プログラムは、情報局長が思わずスカウトしてしまったという出来だという。
ともあれこの一週間、随時流れてくる逆探知情報に、久遠や他の局員達は現場へ急行していった。が、引っかかるのは雑魚ばかりで、肝心の大物が捕まらない。
「今度のはビンゴだといいですね」
ファーストフード店の角を曲がったところで合流した司法局員が、久遠に話しかけてきた。走りながら、久遠は頷いた。
カーソルの場所は雑居ビル。上階がアパートになっている場所だった。先に来ていた局員が、玄関と裏口を手分けして見張っているという。
各階店舗を繋ぐエスカレーターを駆け上りながら、久遠は無意識に銃のホルスターを探っていた。
最上階、一番奥の部屋。扉の中からは物音は聞こえない。だが微かに、生き物の気配は感じられる。
久遠は再び銃を確認し、それから身分証明書を出した。局員達は腰の警棒をいつでも抜けるよう身構える。全員に目配せした後、久遠はドアをノックした。
[5.4]
「連盟の捜査官、久遠月日子です。ある事件の事でお話を伺いたいのですが?」
返事はない。
再びノックして名乗る。
返事はない。
ノブをひねったが内から鍵がかかっている。ガチャガチャと数回鳴らしても、内側の気配は動かないままだ。
久遠はもう一度メモ帳の画面を確かめた。確かに此処。この部屋を示している。
小さく溜息をつき身分証明書をしまうと、久遠は銃を抜いて、撃った。ガチンとドアノブが弾け飛ぶ。そのまま部屋の中へ走り込もうとしたが……何故か久遠はためらった。
部屋は薄暗い。所狭しとパソコンのディスプレイが並んで、ホワイトノイズを囁いている。
誰もいない。閉め切られたカーテンの一枚が、風に揺れているのを見ると、そこからどうやら逃げ出したのだろう。
だが……この溢れんばかりの「生き物」の気配はなんだ? 久遠は頭の奥がすうっと冷たくなるのを感じる。
そして、見つけた。
「久遠捜査官?」
入口から一向に進まない久遠に、訝しむ声がかけられる。だが久遠から反応は返らない。
とうとう一人が久遠を押しのけ、部屋の中に入った。
途端に吐いた。
ディスプレイの青い光に照らされ、その存在その気配をありありと放っていたのは、無数の、脳、だった。
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今回は、読んでくださっている方からアドバイスして貰った
「マージン(余白)設定」を使ってレイアウトしてみました。
でも、私の使ってる「ホームページビルダーver3」では、マージンを設定が
作成画面に反映されないので(サポートしてないみたい…)、色やらリンクやらを指定したあと、
メモ帳にて仕上げ作業をしなくちゃなりません(泣)。
でもまあ、「枠の長さが足りないかも!?」と毎回戦々恐々していたのが無くなるかと思うと、
手間でも何でもないです♪ レイアウト、いかがなものでしょうか?
づらづらと長い本文ですが、やはし不安になりますねぇ、「面白いのかな?」と。
今回は特に地の文ばっかりだったので……っていえ、あの、これから面白くなりますので!!(爆)
………………多分(汗)。
華天 拝