眼。



 修学旅行の行き先が、京都なのは定番だ。
 古風な雰囲気と、はんなりとした感じは人を魅了してやまないと思う。
 七瀬とてそれは例外ではなかった。
 元より、古寺や遺跡を巡るのは嫌いではない、どちらかというと、浪漫を感じる。
 八つ橋は生に限る、とか、御手洗団子は三兄弟になり得ない、とか下らないことも、
その場に居れば、「浪漫」なのだ。
 しかしながら、ちょっと困っている。
 修学旅行も終わるという頃に、左瞼がどうも重い。
 七瀬は溜息を吐く。
 この感覚には馴染みがあるのだ。
 どうしても、左の視力が弱いせいか、幼いときから「ものもらい」を何度も繰り返している。
 以前などは眼科医が「あら……これ、根が深いわねぇ」とつぶやきながら、一生懸命に膿を出そうと針でちくちくと刺してくれたことがあった。
 それが原因で、患者の耳元で不安にさせるような発言を口にする眼科医には関わりたくない、とそれきり通っていない。

「困ったな……」

 あと一日で良いのだ。
 保険証の番号を持参して居るとはいえ、旅先で病院の世話になりたくはない。
 点眼薬でごまかそう、と七瀬は薬局で眼帯を手に入れ、それで乗り切ろうと決心した。

 終日自由行動である最終日は、まさに学生たちにとって待ち望んでいた物だったが、眼帯のおかげで歩くことさえままならない。
 手を貸してくれる友人に悪く、「大丈夫、ゆっくり行くから。待ち合わせ場所で落ち合おう」と切り出した。せっかく、楽しい思い出になるはずの一日を、何も自分の世話で終わらすのは勿体ない。
 その提案は友人たちに受け入れられ、七瀬はのんびりとぶらつくことに決めた。


 そこは、朽ち果てた寺院か社殿か。
 ぶらぶらと遠近感の掴めぬ視界で、ひょっこりと目に入ってきた、なんとも無惨な残骸だった。
 うっかり見逃してしまうような、ひっそりとした佇まい。苔のむした階段は見事に緑色で、これを上るにはさぞかし苦労するであろうが、なんとなく興味を覚え、足を踏み入れてしまった。
 さすがに此処に観光客は居ないだろう……レアな物を発見した!! とばかりに七瀬はにんまりとする。
 古い物への執着心は並ではなく、とうとう付いたあだ名は「ご隠居」だ。
 誰もいないのを承知しながらも「ごめんください」と周囲を見渡す。
 とたんに、空気が歪んだ。







それは、女だと思う。
 顔は見えないが、見事に赤い唇……三日月のように弧を描き、手招きをしている。
とっさに「やばい!!」と思うが、なにが危ないのかすら分からない。
危機本能が警鐘を鳴らしているというのに、体はふらふらと引き寄せられていった。

『……私が、見えるかえ? これは運の良い……』

女の声は、水底から聞こえるようにくぐもっていた。

『私はここから動けぬ……おまえ、私の眼になっておくれでないかえ……?』

女はゆらり、眼帯へと手をかけた……が、どういうことか、
その感触はようとして伝わらない。
喉が引きつる。
これは、生きているもののではない。
逃げろ、逃げろ、逃げろ……さあ、早く足を動かせ、
この女に関わっては絶対にいいものではない。
そう思っているというのに、足は一向に動かず、
まるで石畳に足が張り付けられたよう。

『おまえ、その眼は役に立つまい? ならば、私におくれ……』

三日月の唇はいよいよつり上がり、七瀬に迫る。
逃げなくちゃ!!
足はいよいよ重くなり、一向に前に進まず……否、引き寄せられている!!




 修学旅行から数週間後。
 七瀬の左目から眼帯は取られることはなく、級友達の心配をよそに、七瀬は黙っ
て微笑む。
 言っても信じて貰えまい。

『私におくれ』

 あの言葉。
 眼帯を外してはならないのだ。
 見えてはならぬモノが、そこに、ある。
 佇む女。
 三日月の微笑みを浮かべて、七瀬を蝕む。
 人身御供にされたせいで、動けぬ女のために、左目は犠牲になった……二度と戻
らない。
 女は、はんなりと微笑み、その手を差し出す。
 ………次は、右目だ、と。









★理々子さんからのコメント★
 ワケ分からないっす〜〜〜〜〜!!
 もうちょっと、どろどろの狂気を孕んだモノにしたかったのにぃ!!
 ………へっぽこでごめんよぉ、競作でもなんでもねぇや(涙)。
 でも、ちょっとシンクロ率が高くなっていて、嬉しいかも(爆)。

★華天の感想★
 ……イヤン、シンクロ率アップ!(爆) 修学旅行先が京都、鍵を握るのが妖魔のような女、
 結局主人公は眼を取られてしまう、と似すぎ! お題がわるかったのかなぁ?
 レイアウト、平凡な上に、京都っていうよりチャイナですまん(爆) 読んだとき、紅柄格子のイメージがあって、
 「格子といえば双子屋さんの壁紙ッ!」ということで……(笑)。
 女の造形が、こちらのがより美しくて不気味で……似すぎた分、まいるね(トホ)。
 微妙に長野まゆみが入っていないか? あたしゃ長野っぽく……と思って書いたぞ(笑)。


◆壁紙は双子屋さんからいただきました。いつも謝々です♪
◆同じお題で書いた華天の小説は、理々子さんのHPにあります。ぜひ行ってみてくださいまし♪
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