花音は中古のパソコンを買った。自分のアパートに置けばいいものを、またしてもチェンの部屋に持ってきている。
 どうして新品じゃないのか、と聞くと、
「超高速ヴァージョンにするの♪」
 本体の裏蓋を外しながらにっこり笑った。

「ね、……」
 花音はふと呟いた。
「あたし、余計な事しちゃったかな」
「どうして?」
 自分のパソコンを起動しながら、チェンは聞いた。

「ちょっとわかるんだよね、クローディアって子の気持ち」
「……」
「あたし達の、まあ半分くらいは、特別な目的のためにハッキングしてるわけじゃないんだもん。ただこの魔法の箱で面白い事がしたかっただけ。
 あたしはコピー・プロテクトを外すのが面白いと思ったし、クローディアって子は、架空の人間を作るのを面白いと思ったんだ。面白いことには参加したいし、自分でも仕掛けたい。
 誰だって面白いことは好きでしょ?」

 ああ、とチェンが頷くと、花音は少し笑った。

 誰かに魔法を仕掛けるには、まず自分に魔法をかけなければ、どうして成功しよう?
 自分が面白いと思わなければ、誰も面白いとは思うまい。

 ディスプレイにメニュー画面が浮かぶ。チェンは「スターネット」のブックマークをクリックし、アクセスを開始した。
 もうデューカはいないとわかっているのに、パソコンのスイッチを入れると、どうしても「スターネット」をのぞいてみたくなる。
 もしかしたら、第二の「デューカ」がデビューしているんじゃないか?
 そんな期待がいつも胸を騒がす。

 “蜃気楼は消え、幻想は醒めます。”

 クローディアの最後の言葉だ。確かにデューカはいなくなった。
 だが歌がある。チェンは、一曲たりとも削除していない。
 ブリッヂで話す誰もが同じだった。
 デューカはいない。だが……。

 こういうのも、悪くないな。

 チェンは唇の両端を持ち上げた。
 静かに笑う青年を、そばかすの少女は不思議そうに見上げ、つられるように微笑んだ。