自称ハッカーの挑戦は、まだまだ続いていた。
 今度は何と、直接「SOD」のホストをアタックしようと言うのだ。花音の指は軽やかに「ノート」の上を走る。

「もういいって、花音。バイト止めたったっていいんだし、そんなムキになるなよ」
 途端にぷーっと頬を膨らませ、花音はチェンを睨んだ。
「そういうけどね、自分に出来ないことがあるって悔しくない?!」
「それとこれとは別だろう?」
「チェンには別でも、あたしには別じゃないのよぅ! あたし、こういうの大好きなの。だからきっちりしたいの」
 花音はチェンを振り返ると、じっと見つめた。
「ね。やらしてよ」
「……電気代、お前持ちな」
「ひど! スピードダイヤラー付けてあげたでしょ?!」
「違うんだよ、それとこれとは」
 チェンが苦笑しながら頷くと、花音はまたノートに向かった。
「チェン、この話聞いたことある?」
 画面から目を離さずに、花音が尋ねた。

「ブリッヂに、時々デューカ本人がご光臨下さるんだって」
「へえ、本当か」
「ま、噂だけどね。もちろんデューカって名乗るわけじゃなくて、何てったかな、クララ……だか、クラウディアだか、そんなハンドルでフリークのふりしてるってハナシ」

 先日のブリッヂの少女が、確かそんな名前だった……チェンは思い出していた。
 幼さの残る声は、まだ十代だろう……彼女が、デューカ?

 突然ひゃあと花音が叫んだ。
「やば! セキュリティーにひっかかった!」

 鼻歌混じりに侵入していた花音も、今や椅子から立ち上がり、画面に流れる文字を見つめて、必死にタイプしていた。
 データやプログラムの重要部分には、部外者がのぞき見できないようになっている。
何重もの目隠しをしたり、偽のデータを見せたりという防犯機能がついているのだ。「SOD」も例外ではなかった。

「あー終わりだぁ。『番犬』が来ちゃった……」
 幽霊のような声を上げ、花音はどかりと腰を下ろした。
 画面を見ると、シェパード犬のアニメーションが画面せましと走り回っている。
「ムカツクー! これ来るとね、電源も落とせないんだよ! アニメの間中ずっとパソの中身もぐちゃぐちゃにされんの!」
「……どんぐらい?」
「前は2時間だった」
「……前?」
「そ。前はね。今どれぐらいバージョンアップしてるかわかんないけど」
 花音の顔が白くなり、そばかすばかりが鮮やかに浮く。チェンは、前もどこかに侵入したのか、という疑問を口にしようとして、止めた。
「悪ィ、花音……」
「チェンのせいじゃないよ。コピー・プロテクトを見た時点で、相手の力量を測れなかったんだから、自業自得だもん」
 それでもがっくりとうなだれて、花音はふらふらとベッドに向かった。
「犬、消えたら起こして」
「……ああ」

 顔を腕で覆った花音をちらりと見て、チェンは彼女のノートパソコンに目を戻した。
 文字はまだ回転を止めない。

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