チェンは花音を見ると、頬杖をついた。
 コンピュータに詳しい彼女を助っ人に呼んで5日。
 自称「へなちょこハッカー」花音は、曲やムービーの解析をし、プログラムの癖から(癖もあるんだそうだ)『SOD』のスタッフを割り出そうと考えたのだが、

「無理だよ、チェン。デューカのレコード、曲もムービーもしっかりコピー・プロテクトがかかってるもの」
「やっぱり、ファンクラブからでないと、ダメって事か」

 はぁ、と二人でため息をつく。
 コンピュータのソフトは、様々なプログラムで作られているが、花音はコピー防止のプログラムに注目した。
彼女は、そのプロテクトを外して「遊ぶ」ハッカーだったからだ。
 しかし……。

「これすごい! チョー強力だよ。プロテクトを外したら、きっと音楽もパァになると思う」
 花音は歓声を上げた。そばかすの散っている頬が興奮に染まる。

 ファンが曲やムービーを「買う」のは、『SOD』のコンピュータからダウンロードする事だ。
したがって、品切れになることはない。本物(オリジナル)はいつもデューカの元にある。
 しかしそれでは、誰かが手に入れた曲をどんどんコピーしていけば、ファンクラブの会費も曲の料金も払わなくてすむ。
 故にデューカの作品は、ダウンロード版からコピーができないようになっていた。
 圧縮されたレコードをの解凍には、専用の解凍ソフトがついてくる。それを使うには、ファンクラブのIDナンバーが必要だし、
解凍が終わったソフトは、自動的に削除されてしまう。
 ならば解凍されたレコードをコピーすれば、と考えがちだが、どうやってもムービーにはノイズが走り、曲はとぎれ、肝心のデューカの声が入っていない。

「こんなの外せんの誰もいないよォ。これ作った奴、かなりの腕だね」
 花音はすっかり感心している。
 ますます遠のいた標的に、チェンは肩を落とした。
「元気だしなよ。いいもの持ってきたんだから」
 チェンの肩を叩いて、花音は電話線の辺りをごそごそ探り始めた。
小さな箱のような物を取り付けている。
「これ、あたしがが作ったの。簡単に言うと、電話をタダ掛けできる機械なんだ。ネットもブリッヂもやりたい放題!」
「ブリッヂ?」
「電話会議だよ。1対1じゃなく、10人でも100人でも、同じ電話で会話出来るんだよ」
「あれ、昔、そういうのなかったか?」
「『パーティライン』のこと? まあ似てるけど、システムは全然違う。アレみたいな専用の回線ってのがなくて、適当な空き回線に回されるんだよ」
「混線しないか?」
「それがいいんじゃん!」
 何で、と不思議そうな顔をする恋人に、チェンは力無く笑いかける。

 ともあれ、ブリッヂとやらを使うと、タイピングをしなくていいのだ。喜ばしいことではないか。
 文字を打ち込み、画面上でリアルタイムの「会話」をするチャットは、彼にとって調査の最大のネックだったのだ。

「デューカのファンは、チャットよりもブリッヂ利用してるって話だよ。
 あとでヒミツのキーワードと、フリークがたくさんいるナンバーを教えてあげるね」
「でも違法なんじゃないか? し、仕組みは?」
「……言ったって、チェンはわかんないよ、きっと」
「いいからちょっと言ってみろよ」
 花音は肩をすくめた。
「チェンのタイプの電話機は、通話するときに特定の周波数を出すの。それで電話会社は『通信』を判断するのね。
 んで、使用料を取られるの。お金を取られないようにするには、その周波数を別のモノにすり替えちゃえばいいでしょ? お役所とか、電話会社そのものとかサ」
「……ちなみにこれはどこの周波数なんだ?」
 恐る恐る尋ねたチェンに、

「FBI」

 そう言って笑う花音は、本当に可愛くて可愛くて、抱きしめてしまいたいほどだった……。


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