| 例によって「スターネット」に接続し、パソコンをつけたまま電話の受話器を上げる。 (もしくはヘッドホンとマイクをパソコンにつなぐ)。 花音から教わったキィワードを入力し、待つ事数秒。 受話器のノイズが高音に変化したら、番号を適当にプッシュする。 回線に誰もいなければ呼出音が続くだけ、先客がいれば万歳、楽しいおしゃべりの時間が始まる。 違法行為に乗り気じゃなかったチェンだったが、近頃はすっかりブリッヂの常連だ。 タイピングにもたつかなくてもいいし、何よりファンへのインタビューがはかどる。 「誰? 誰が来たの?」 少し遠くから少女の声が聞こえる。ノイズがひどくて聞き取りにくい。 「こんにちわ。チェンだ。聞こえる? 君は?」 答えがない。 「もしもし、どうした?」 「ごめんなさい、ブリッヂには女の子が多いから、ちょっとびっくりしたの。私はクローディア」 「よろしく。ところで君、デューカのファンかい?」 「ええ、もちろん!! 曲もムービーも、全部持ってるわ」 「そりゃラッキー。俺、ライターのバイトしてるんだ。『S☆R★S』って知ってる?」 「うん、毎月読んでる」 「サンキュ。俺、それに記事書いてるんだ。で、今度デューカの特集組む事になったんだけど、君にインタビューしてもいいかな?」 毎回こうしてインタビューが始まる。 自ら言うよう、クローディアは大変なフリークで、レアな情報をよく知っていた。曰く……、 ウェブサイトの「SOD」はたった3人で切り盛りしている。 デューカの音域は5じゃなく6オクターブだ。 声の割にブサイクだから人前に出ない。 本当は男だ。 ……などなど。 実に楽しげな口調に、信憑性はまるでない。彼女自身もあまり信じていなさそうだ。 噂が噂を作る都市伝説と絡めても記事にできそうだ、とチェンは考えた。 「クローディア、もしキミが近い所にいるんなら、今度オフ・ラインで会えないかな? もっと詳しくインタビューしたいんだ。友達つれてきて構わないし、もちろんお礼もする」 受話器からはさらさらと音だけが聞こえる。 「クローディア?」 「…………会えないわ」 「俺、変質者じゃないぜ。何だったら会社に聞いてくれれば……」 「そうじゃないの。そうじゃなくて……」 ざざ、と一瞬音が乱れ、高い信号音が反響する。ブリッヂに誰かが参加してきたのだ。 「ハイ! あたしはミシェール! デューカのフリークよ。ココには誰がいるの?」 「クローディアよ」 「あら久しぶり!!」 「チェンだ」 「まあ! 殿方なのね!! 珍しいこと」 「ごめんね、ミシェール。用があるから先に失礼するわ」 「残念! でも、チェンはいいんでしょ?」 この後チェンは、延々3時間ものおしゃべりに付き合わされる事になる。 (違法であるが)電話代がゼロなのがせめてもの救いだった。 |