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「サンタクロースを信じて、何が悪いんだ。どこがガキっぽいんだ。サンタがいるって信じ
れば、そこにサンタはいるんだ。いつだってみんなのそばにいるんだ」

 手を掴まれた少年はびっくりしたように俺を見た。が、次の瞬間乱暴に手を振りほどいた。

「痛ェよ! いねーのをいねーっつって何が悪いんだよ。ホントのことじゃねーか」
「だからサンタは……!」
「いるよ」

 冷静な『クラウスくん』の声だった。少年も俺も、周りで身動き一つせず俺らを見ていた子
ども達も、みんな一斉に彼を見た。

「サンタはいるよ」

 もう一度『クラウスくん』は言った。微笑んでいるようにさえ見える。その表情に力を得た
のか、子ども達も口々に叫び始めた。

「いるもん、サンタさんはいるんだもん」
「本当にいるよ。去年もプレゼントをくれた」
「絶対いるもん!」

 けどそんな声を少年は打ち消した。

「だったら証拠を見せてみろよ。サンタは本当にいるって証拠を」
「ああ、いいよ」

 『クラウスくん』はあっさり頷くと、自分のトナカイバイクに跨った。エンジンはかけてい
ない。けれど胴体を挟む脚と、角ハンドルを握る手にぎゅっと力が込められたのがわかる。だ
が緊張した手足とは裏腹、華やかな笑顔を子ども達に向けた。

「サンタさんに来て欲しい?」
「うん!」

 輝く子ども達の目。それを確かめると、『クラウスくん』はバイクに向かってこういった。

「さあ、出番だぞコメット」

 バイクは一度だけ大きな、とても大きなエンジン音を響かせた。そして次の瞬間、ふわりと
宙に浮き上がったのだ。そのままするすると上昇していく。

 一瞬の静寂、その後の歓声。

 俺も子ども達と一緒にびっくりして、そして興奮していた。驚きすぎて、そして声を上げす
ぎて目眩がしてくる。なんてこった、ホントにサンタの会社だったのか。

 子ども達に片手を振って応えながら、『クラウスくん』は空中をくるりと旋回してみせた。
エンジン音の代わりに、しゃんしゃんと鈴の音が鳴り響く。見上げる中学生の少年にどう、と
片目をつむってみせてから、俺に向かって言う。

「早く乗りな」

 俺はルドルフに跨った。けどどうしていいか分からない。オロオロする俺の周りを、子ども
達が取り囲む。

「早く飛んでみて」
「乗ってもいい?」

 子ども達の期待に満ちた目、目、目。ええいままよ、と角ハンドルを握る。飛ぶのか、ホン
トに? 飛んで欲しい、いや飛べと念じつつも不安で胸がいっぱいになる。

 ふと顔をあげると、あの女の子と目が合った。すると彼女は、とびきり上等な笑顔を俺とル
ドルフに向けたんだ。

 大丈夫、飛べる。
 そう思った途端。

 待ってましたとばかりにルドルフのエンジンが轟音を放った。びっくりした子ども達がルド
ルフから手を離した隙に、トナカイスクーターは一気に空に駆け上がり、気付けばコメットよ
りもずっと高い空にいた。子ども達の歓声も遠くに聞こえる。

 足の下に街灯や家の明かり、それにクリスマスのネオンが輝いてた。絶え間なくきらめく光
は、宝箱から金銀財宝を鷲掴みにして世界中にばらまいているような気分になった。

 しゃらしゃらと鈴の音をさせながら、ゆっくり上空を旋回する。さっきの中学生が目も口も
真ん丸にして空を見上げていた。うんうん、君の気持ちはよく分かるよ。一番驚いてるのは実
は俺だから。

「さあみんな、お家に帰ってベッドにお入り。サンタが、プレゼントを届けにいくからね」

 『クラウスくん』の言葉に、子ども達は競うようにそれぞれの家に向かう。その中に、あの
女の子を見掛けた。彼女の半分ぐらいしかない女の子の手を引いている。きっとあの子が妹な
んだろう。女の子は俺に気が付くと、妹と一緒に手を振った。俺も振り返す。

 公園から子ども達が消えたところで、俺たちはプレゼント配りを始めた。

 夜空を滑りながらあちらの家へこちらの家へとプレゼントを届ける。子ども達のほとんどが
窓を開け、弾けるような笑顔で待っていてくれた。贈り物を手渡す『クラウスくん』の顔も優
しいものだ。あの中学生も照れくさそうに待っていた。俺はそいつの頭をわしわしと撫でた。

 白い袋の中身は順調に減ってゆき、東の空がだんだんと白んできた頃、プレゼントはとうと
う二つになった。

 俺はそれを大事に抱えると、最後の家の窓を叩いた。静かに開いたそこからは、あの女の子
が顔を出した。

「お待たせ。妹さんは?」
「寝ちゃった」

 肩をすくめる。最初に会った頃の張り詰めた様子がどこにもない。普通の小学生の女の子だ。
俺はプレゼントを渡した。

「もうサンタを信じないなんて言うなよ」
「言わないわ」

 赤いリボンが妹の分、白いリボンがその子の分だ。受け取った女の子は、晴れ晴れと笑った。

「ありがとう!」

 俺は手を振って、ルドルフで空高く駆け上がっていった。太陽の輝きがどんどん星空を追いやっ
てゆく。なんて白い光、と眩しく見つめたその時、がくりとルドルフは失速した。切り揉み急降
下、サンタ墜落死なんて洒落にならないぞオイ!

「全く世話の焼ける奴!」

 電信柱の先あたりで、『クラウスくん』が俺とルドルフを掴まえてくれた。けれどコメットも
俺とルドルフの重みに耐えかねてか、どんどんと高度を落としていく。

 今度こそ墜落、と思った瞬間。誰かに襟首をぐいと掴まれてルドルフに跨ったまま空中を一回
転した。ゆっくりと地上に降りていく。ふと横を見れば、『クラウスくん』もコメットに乗った
ままの格好で情けなく襟首を掴まれていた。

「二人とも、お疲れさま」

 襟首から手を離し、にっこりとこちらを向いたその人は、事務所の美女! 生命の恩人よ!

 でもマテ。よくよく見れば、彼女はナナハンばりの巨大なバイクに乗っている。それでさっき
俺たちの襟首を掴んだってこと……?

「飛行モードはイヴの夜しか使えないわ。後はゆっくり帰りましょう」

 疑問はあっという間に吹き飛んで、その華やかで優しい微笑みに、俺は見惚れてただただ頷く
しかなかった。



 事務所に戻って、ルドルフを洗う。結構汚れていたな。赤鼻ライトも丁寧に拭く。

「洗い終わったら事務室へ来て。お給料を渡すから」
「は〜い!」

 美女の言葉に返事をしながら、俺は来年もやってもいいかな、と思っていた。正社員ってのは
まだちょっと考えるけど、バイトなら、また……。

 タオルで手を拭きながら事務室へ行く。他の奴らはもう帰ったようで、部屋には美女と俺しか
いなかった。金髪小僧すらいない。二人きり、ってやつだ。チャンス!?

「本当にお疲れさま。助かったわ」

 美女が封筒を差し出した。受け取った重みの意外さに俺はびっくりして彼女を見る。

「こんなに?」
「契約に見合う仕事をあなたはしたわ。当然の報酬よ」

 俺は頭を下げて、給料袋をジーンズのポケットに入れた。

「仕事は楽しかったかしら」
「そりゃもちろん!」

 俺は即答した。

「もし良かったら、来年も声かけて下さい。俺、また頑張りますから」
「そうね」

 美女は微笑むと、右手を差し出した。

「本当に、ありがとう」

 柔らかい手を握り返して、それが彼女を見た最後だった。

 次の日、事務所に返し忘れたものがあったので自分のスクーターで行ってみた。けれど事務所に
はどうしてもたどり着けなかった。というか、どこにも看板が掛かっていなかったのだ。曲がる角
も他の建物も何もかも前と同じなのに、サンタ事務所だけがなくなっていた。

 ちょっと淋しかったけれど、がっかりはしなかった。だって俺の手には、ルドルフのキーがある
からだ。次のクリスマスには、きっと事務所は現れるだろう。そしてあの美女がこう声をかけてく
るに違いない。

「サンタになりません?」と。

 そして俺は空飛ぶトナカイバイクでプレゼントを運ぶのだ。


 君のところへも。



→please keep your wishes to next Christmas!!

→あとがき