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 お決まりの赤い衣装を身に纏って、サンタ事務所の社員はバイクの前に勢揃い
した。もう夜、というより夜中に近い。天気予報では雪が降ると言っている。

 トナカイバイクにはサイドカーが取り付けられ、巨大な白い袋が乗せられてい
る。まるで雪山みたいだ。中にはぱんぱんにプレゼントが詰まっている。こんな
に遅くスタートするとは思っていなかった俺は、半ばパニックになっていた。そ
んな俺の背中を仲間達がぽんぽんと叩く。

「いよいよですわ」

 居並ぶ社員の前に美女が進み出た。ダイナマイトな身体をピッタリとした赤い
レザーのつなぎに包んでいる。今回は流石に数が多く、彼女も配達をするのだと
いう。彼女の隣には金髪小僧がいる。あいつが着るとサンタ衣装もパンクな雰囲
気だ。

「幸運とは、幸せを運ぶと書きます。子ども達のために、サンタクロースとして、
事故のないよう立派にプレゼントを配りましょう。メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」

 唱和して、俺たちは各自のバイクに跨った。
 ルドルフは快調だ。昨日の故障は何だったんだろう。そう思いながら走っている
と、隣りにバイクが並んだ。金髪小僧だ。

「あいつから、お前のエリアを手伝えと言われた」

 一瞬むっとしたが、同時に安心もした。こんなに大量のプレゼントをこの夜だけ
で配れるものかどうか、やっぱり心配だったからだ。

「ルドルフ、まだ調子が出ないみたいだな」

 そう言われて俺は首を傾げた。こんなにスムーズに走っているのに? まぁいつ
もの馬力がちょっと足りないような気がするけれど、あまり爆音を響かせると夜中
に迷惑じゃないか。

「俺には丁度いいけど? 前に乗ってたときと違うように見えるのか」
「ああ違うね。大違いだ。このままじゃイヴの間に運びきれないぜ」

 そんなにきっぱり言わなくても……。どう違うのか訊く気にもなれない。担当地
区まっでの十数分、俺たちはただ黙ってトナカイを運転していた。スピードはいつ
もより出しているが、かといって時速100キロで走ってもこのプレゼントの山を
配りきれるとは到底思えないんだが。

 一旦打ち合わせをしようと例の公園でトナカイを停める。と、同時に滑り台やジャ
ングルジムの陰から、子ども達がわらわらと現れた。

「ガイジンだ〜」
「ねえ英語しゃべって〜」
「サンタは今日来ないの?」

 幼稚園や小学生が多いようだが、中学生らしい背の高い影ももちらほら見える。
広場の半分ほども集まった子ども達は、俺たち二人を取り囲み、口々に質問をして
きた。

「お兄ちゃんがサンタの孫?」

 幼稚園ぐらいの女の子の問いかけに、金髪小僧は目を丸くした。

「いや俺はサンタの孫じゃなく……」
「あー、いやいや、この人はサンタクロースの孫なんだ」

 俺は慌てて金髪小僧の口をふさぐと、にこやかに返事をした。

「クラウスくんと言うんだよ。おじいさんの代わりにプレゼントを配るんだ」
「てめぇ、俺は孫じゃ……」

 もがく『クラウスくん』を更に押さえつけて、俺はにこにこと話を続ける。

「それにしても、みんなどうしてこんな所にいるんだ? プレゼントなら家で待って
いればいいのに。お家の人が心配するぞ」
「私が喋ったの」

 見ればあの女の子が、子ども達の垣根の向こうから手を振って嬉しそうに叫んでい
た。遠目でもはっきりわかるぐらい、頬が赤かった。

「今日、本物のサンタの孫と、サンタ会社の人がプレゼントを配りに来るって言った
ら、みんなが集まって来ちゃって。本当にサンタの孫の人を、クラウスくんを連れて
きてくれたのね。とっても嬉しい! ……でも、お仕事の邪魔だったらごめんなさい」
「いや、いいよ。ありがとう」

 礼を言ったのは意外にも金髪小僧だった。どうやら察してくれたらしく、『クラウ
スくん』として生きる決意をしたようだった。

「みんな、集まってくれてどうもありがとう。でもここでみんなにプレゼントを渡す
ことはできないな」

 『クラウスくん』が言うと、子ども達はがっかりした声を上げた。

「でも、みんなお家に帰ってベッドで待っていてくれたら、僕たち二人がちゃんと届
けるよ。約束する」
「寝ていても起こしてくれる?」

 小さな男の子の声に、『クラウスくん』は頷いた。

「でもどうやって来てくれるの? あたしのお家には煙突はないわ」
「ぼくんちは6階だけど大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」

 子ども達の質問に一つ一つ頷きながら答える『クラウスくん』はとても優しいお兄さ
んに見えて、サンタの孫にしたのは正解だった。

「ちぇ、くだらねぇ。サンタなんて誰も信じてねぇんだよ。ほんとはデパートか何かの
店員なんだろ。ガキっぽい集まりはいいから早くプレゼントを渡せよ」

 中学生ぐらいの男の子が、小さな子たちをかき分けて俺たちの前に進み出た。街灯に
青白く照らされた顔はまだ幼くて、去年の今頃はまだランドセルを背負っていたんじゃ
ないかと思う。押しのけられた子ども達は泣きそうな目をして俺たちと少年を見比べて
いる。少年の手が白い袋の口に掛かる。

 なあ。俺たちは、いつからサンタを信じなくなってしまうんだろう?

 俺はその子の手を掴んだ。


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