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「この前、君と君の妹と、サンタを信じないって言っていたけど、どして?」

 女の子は困ったように首を傾げた。

「だってサンタは本当はパパやママなんでしょう。もう知ってるんだもん」

 彼女がそう言った途端、ルドルフが急に重くなった。腰を入れて押さないと
動かない程だ。

「この前、パパとママがクリスマスプレゼントの相談をしていたのを、私と妹
で聞いちゃったんだもん。私は新しいバッグで、妹はマジカルプリンセスの変
身セットなんだって」

 ……決定的だ。親ももっと気を使えよ、子どもの夢のために。こんなんだか
ら想像力の無い子どもが出て来るんだっつーの。ルドルフの上で女の子はくす
んと鼻をすする。

「私はいいわ。もう5年生だし、ずっと信じてたけど、ホントはそうじゃない
かなっても思っていたもの。けど妹はまだ幼稚園よ? もっとずっと信じてい
たっていいじゃない。あの子、パパやママの前では普通にしてるけど、毎日泣
きそうな顔をしてるのよ。私、なんとかしてあげたいのに、何もできない」

 涙が一粒、ぽろんとほっぺたを転がったのを見て、俺はやるせない気持ちに
なった。子どもに夢を、なんて言ってる大人自身が、子ども達から夢や想像力
を奪ってる気がしてならなかった。確かに夢じゃ腹は膨れない。けど心を膨ら
ますことはできるだろう?

「なあ、心配すんなよ。何もしなくて大丈夫だよ」

 女の子の頭を撫でると、赤い目が不思議そうに俺を見上げる。

「だってさ、サンタは本当にいるんだから。知ってるだろ、俺がサンタ事務所
にいるって」
「うん。でもそれって……」
「サンタの故郷ってどこだか知ってる?」

 女の子は頷くと、フィンランド、と小さな声で答えた。俺は笑顔で言う。

「大正解。実はな、そこからサンタの孫が来てるんだよ。金髪に青い眼で、ディ
カプリオよりも百倍格好いいんだ。そいつが日本でのプレゼント配りの指揮を取
ることになってるんだ。自分でも配るっていうから、もしかしたら君のところに
も来るかもしれないよ」
「へえ、すごい!」

 女の子の表情が少しずつ明るくなってくる。それを嬉しく思いながらも、ディ
カプリオの百倍は言い過ぎたかもしれないと後悔した。五倍ぐらいは確実に格好
いいと思うが。

「そうだ、サンタの橇を引いてるトナカイに、全部名前があるって知ってた? 
ええとダッシャー、ダンサー、プランサー……ええと……」
「それからヴィクスン、コメット、キューピッド、ダンダー、ブリッツェン、で
しょ?」
「そう、その通り!」

 未だに名前を覚えきれない俺は興奮した。サンタを信じないっていうこの子は、
本当は誰よりもサンタを信じたいんだろう。

「でももう一匹、忘れてないか。有名なのがいたろう?」
「ルドルフね! 赤鼻のルドルフ!」

 女の子は手を打って楽しそうに叫んだ。

「このスクーター、そのルドルフって名前がついてるんだ。ほら、鼻のライトんと
こが赤いだろう?」

 俺はルドルフのライトを点けてみせた。角ハンドルの間から覗き込むようにして、
女の子は鼻ライトを見る。笑顔はますます広がった。

「かわいい! これに乗ってプレゼントを配るのね。お兄ちゃんが私の家に来てく
れるといいな」
「大丈夫。俺じゃなく、ちゃんと社長に、本物のサンタクロースに来て貰うから。
だからさ、妹にも言ってやりなよ。サンタはいるって。楽しみに待ってなって」
「でも……」

 まだ困ったようにしている女の子の眉の間のシワを、俺は指でぐいぐいと伸ばし
てやった。

「サンタはいる。さあ言ってみな」
「……サンタはいる」
「もう一回」
「サンタはいる」
「もっと大きい声で」
「サンタはいるの!」
「もっとはっきり言って!」

 大声を出して、女の子はスッキリしてきたのだろう。笑顔がますます明るくなり、
楽しそうな顔で叫んだ。

「サンタクロースは本当にいるの! プレゼントを抱えて空からやってくるのよ!」

 途端に。
 ごうん、とルドルフのエンジンが回転を始めた。
 俺はすごくびっくりした。何もしてないのにエンジンが動いたってことよりも、その
エンジンの響きが、嬉しそうに聞こえたからだ。


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